自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会=3月1日
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会=3月1日
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた衆院政治倫理審査会=3月1日

 「きれい事で党は立て直せない」。16日に東京・永田町の自民党本部であった全国幹事長会議で地方幹部が危機感をあらわにした。派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、政治資金収支報告書に不記載があった議員の政治責任やけじめを求める意見が続出。政治資金規正法の改正議論に地方組織の意見を取り込むよう要望も出た。

 終了後に記者団に囲まれた島根県連の絲原徳康幹事長は4月の衆院島根1区補選を念頭に「処分を含めて早くけじめをつけていただきたい」と語気を強めた。

 共同通信社の世論調査で、77・3%が裏金事件に関与した安倍、二階両派の幹部に「重い処分が必要」と回答。ただ、党の聞き取り調査で派閥パーティー収入の還流を受けた両派の議員らは85人に上り、処分の規模や内容の調整に時間がかかっている。

 党の内規には、規正法違反による議員の処分は明記されていなかった。国民から厳しい視線が向けられる中、17日の党大会で会計責任者が規正法違反で逮捕か起訴されれば議員に対して8つの処分のうち、2番目に重い「離党勧告」ができるように改正した。

 

共謀の立証が壁

 とはいえ、判断基準があいまいな内規による処分は国民の納得を得にくい面がある。岸田文雄首相は「責任を厳格化する」と繰り返し、28日の記者会見でも規正法改正に本格的に取り組む考えを示したが、実現の道筋は見えていない。

 現行の規正法は、政治資金収支報告書への不記載や虚偽記入は会計責任者が処罰対象。議員本人の刑事責任を問うためには具体的な指示や了承があったとの立証が必要になる。

 裏金事件を巡って不記載が発覚した国会議員らは安倍派の前会長だった故・細田博之前衆院議長を含めて100人いるのに対し、立件されたのは3人のみ。安倍派ら3派閥の会計責任者3人が立件される一方、安倍派の「5人組」ら派閥幹部は不起訴となった。共謀の立証が壁になったとみられる。

 安倍派幹部は不起訴後の会見で不正会計について「知らなかった」と口をそろえ、「秘書に任せきりだった」と弁解。3月の衆参両院の政治倫理審査会でも「記憶にない」などとの答弁を繰り返した。

 今後の国会で焦点となるのは規正法を改正し、政治団体の会計責任者だけでなく、代表である議員も責任を負う「連座制」を導入するかどうかだ。

 2月の共同通信社の世論調査で「導入すべきだ」との回答は76・5%に上り、立憲民主党や公明党など3党が改革案に明記する。前鳥取県知事を務めた大正大の片山善博特任教授は、公職選挙法のように会計責任者を務める秘書の有罪で議員失職につながる法改正は「(不正の)自制につながる」との見解を示す。

基準づくりに難しさ

 ただ、連座制の導入には課題がある。

 少額の不記載でも適用するかどうかなどの基準づくりの難しさのほか、事務的なミスと、悪質な事案の区別をどう判断するのかも問われる。

 司法政治を研究する東京大の牧原出教授は「検察の捜査が萎縮し、逆効果だ」と述べ、政治家の関与が足かせとなって会計責任者を含めた実態解明が進まないと指摘。裏金分を罰金で支払ったり、政党交付金を減額したりする経済罰を提唱する。安倍派などの不記載を告発した神戸学院大の上脇博之教授は「不記載で立件するハードルは相当高い。連座制さえあれば大丈夫というのは大間違いだ」と指摘する。

 罰則をどう強化し、政治家は責任をどう負うべきか。実効性を担保するためには連座制だけでなく、他の対策を組み合わせる視点も必要になる。