自民党島根県連の2022年の政治資金収支報告書に「組織活動費」の記載が並ぶ。県議や県連職員ら計34人に延べ83回、1人当たり5万~32万5千円を支給し、総額は約1540万円に上る。ただ、受け取り後の使途は明らかになっていない。政治資金規正法で政党が個人に支給する場合、使途の公開が必要でないためだ。
党の内規で国からの政党交付金は充てられないため、党費などを原資に別の口座で管理。現金での手渡しなどで支給し、始まった時期は不明という。旅費や宿泊費、食事代、ガソリン代など幅広く充てられているといい、県連関係者は「いわゆる『小遣い』。やましくはないが、世間体は悪い」と漏らす。
22年に計約65万円を受領した県議は受け取り後は個人口座に入れ、領収書を取っていないことを明かし、「はっきりとこれに支出したという詳細は分からない」と話した。
同様の制度は、共同通信社の調査で自民の16道府県連にあることが判明した。

収入に未記載
国政では自民派閥の政治資金パーティー裏金事件を機に「政策活動費」(政活費)の是非が論点の一つになっている。
政活費は党側の収支報告書には支出として記載されるが、議員側は収入として記載しないため、国民は使途を知ることができず、自民16道府県連の制度と同じだ。国会では自民の二階俊博元幹事長が在任中の5年間に計約50億円を受領したことなどが問題になった。
政活費を巡り、立憲民主党と日本維新の会、共産党は廃止を主張する。自民の石破茂元幹事長(衆院鳥取1区)は、法律違反にならない範囲で選挙活動などに使うと説明した上で「使途が明確にできない性質のものだ」と述べ、党が1月に公表した中間取りまとめで存廃の言及はない。
野党は禁止訴え
裏金事件は政治資金パーティー券収入の実態の不透明さもあらわにした。
規正法では、政治家への寄付金は5万円を超えると寄付者の氏名や住所を公開する必要があるのに対し、政治資金パーティーは券の購入額20万円超が公開基準になっている。
自民最大派閥の安倍派が22年に実施したパーティーの収入総額は当初の9480万円から裏金事件後の訂正で1億282万円増加。一方、収支報告書で公開された企業や政治団体の券購入総額は訂正後に90万円増にとどまる。20万円以下の匿名性を利用した裏金は1億円超に上るとみられる。
再発防止に向け、自民は政策集団によるパーティー禁止を主張。立民は個人を含めて全面禁止を訴え、公明党はパー券購入者の公開基準引き下げを唱える。
専門家の意見も割れる。裏金事件の端緒となった自民派閥の過少記載を告発した神戸学院大の上脇博之教授は「収益が高いオンライン講演会も禁止するべきだ」と強調。政治資金に詳しい日本大の岩井奉信名誉教授は「やめろと言う議論は乱暴だ」と述べ、政党交付金がなく無所属の政治家の資金源となるパーティーは残した上で、公開基準の引き下げなどで透明性を高めるべきだと主張する。
さらに、国会では30年前の政治改革の経緯が論点となっている。政党交付金を導入する代わりに企業・団体から政治家個人への献金は禁止する一方、政治家が代表を務める政党支部は受け取ることができる現行の規正法は「抜け穴がある」などと主要野党5党は禁止を訴える。
裏金事件が突き付けた政治資金の使い方、集め方の課題や改善策を改めて議論する必要がある。法改正やデジタル化で国民が疑念を持たない使途の公開を徹底するのは言うまでもない。
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島根1区を含む衆院3補選(4月16日告示、同28日投開票)の告示まで3週間を切った。最大の争点に浮上する「政治とカネ」を巡る問題の論点を整理する。