介護が必要にならないように体を動かす高齢者=2023年1月、千葉県船橋市(資料)
介護が必要にならないように体を動かす高齢者=2023年1月、千葉県船橋市(資料)

 内閣府は、2060年度までの財政状況や社会保障費を巡る中長期試算を公表した。現状が続けば「長期的に経済の伸びを医療・介護費の伸びが上回る」と指摘。医療・介護給付費の対国内総生産(GDP)比が19年度の8・2%から60年度は最大16・1%へほぼ倍増すると予測した。少子高齢化が進む日本の未来はこのままでは厳しい。いかに回避するかが問われている。

 65歳以上の人口増は40年頃ピークを越す。だが若年人口は減少が続くため高齢化率は上がる。しかも医療の利用が増える75歳以上、要介護者が多い85歳以上はなお増加していくことが医療・介護費を押し上げる。これが倍増もあり得る要因だ。

 試算は、25~60年度の実質経済成長率を巡り(1)0・2%程度の「現状投影」(2)1・2%程度の「長期安定」(3)1・7%程度の「成長実現」―の3シナリオに分けて実施。現状投影ケースで、医療高度化による給付拡大が従来の2倍ペースで進んだ場合に医療・介護費が最大になるとしている。

 どうすればこのシナリオを回避できるのか。内閣府は言う。1%超の成長率を確保するとともに、医療高度化などによる給付拡大を相殺する社会保障の歳出改革を実行できれば、医療・介護費の対GDP比は8・8%程度で安定させられると。問題は、これらの条件を満たすためにどんな具体的政策を打てるかだ。

 試算は結論として、人口減少下の経済成長には「生産性の向上、労働参加の拡大、出生率の上昇などによる供給力強化」が必要とした。医療・介護の給付と負担の見直しで財政を改善していくには「デジタルトランスフォーメーション(DX)による効率化、地域事情に応じた提供体制構築、応能負担徹底」を求めた。改革の「項目」は網羅されたが、肝心の具体策は挙げられていない。

 処方箋を伴わない警鐘では、国民の不安をあおるだけに終わりかねない。岸田文雄首相は「人口減少が本格化する30年までに持続可能な経済、社会を軌道に乗せる」と請け合うなら、それを実現する具体策を早急に国民へ示し、国会の審議に付さなければならない。

 試算には懸念される点も多い。内閣府が目指すべきだとする長期安定シナリオは成長率1・2%に加え、合計特殊出生率1・64程度も前提とする。「現状のままでは長期的に0%程度」と見る成長率を1%超に引き上げるのはそう容易ではない。出生率は19年で1・36、22年は1・26まで落ち込んだ。1・6台は1989年以降記録したことがない高いハードルだ。

 甘い見通しを前提にして成り立つ試算では、内閣府の言う「長期安定」実現の目標そのものが現実味を疑われかねない。

 医療・介護を含む社会保障費は国の一般会計歳出の3分の1を占める。さらなる膨張に歯止めをかけるには歳出改革とともに、経済成長と出生率上昇などで歳入を底上げしていくことが求められるのは間違いない。

 「30年までに新たな経済社会システム構築が必要」とした試算結果を受け、政府は経済成長実現へ今後3年で集中的に取り組む施策をまとめる。一方「30年までが少子化傾向反転のラストチャンス」とする政府は今後3年に子育て支援の「加速化プラン」を実行する。経済対策と少子化対策はまさに一体と認識したい。