「人口戦略会議」が開いたシンポジウム。将来的に「消滅の可能性がある」と見なした市町村の一覧を公表した=4月24日、東京都千代田区
「人口戦略会議」が開いたシンポジウム。将来的に「消滅の可能性がある」と見なした市町村の一覧を公表した=4月24日、東京都千代田区

 衆院島根1区補欠選挙のさなかの公表で、山陰両県では注目度がやや下がってしまった感はあるが、日本の人口減少対策の不備を見つめ直すには、格好のデータになったと言えよう。

 民間組織「人口戦略会議」が4月24日に東京都内で開いたシンポジウムで、将来的に「消滅の可能性がある」と見なした744市町村の一覧を公表した。2020~50年の30年間で、子どもを産む中心世代の20~30代女性が半数以下になるとの推計が根拠。全市区町村の40%超に当たるという。

 「消滅」は人口減少が進み、自治体運営が立ちゆかなくなる状況を指す。人口戦略会議副議長の増田寛也日本郵政社長が座長を務めた「日本創成会議」が14年に、同様の根拠で、消滅可能性がある896自治体を公表していた。

 今回は対象自治体数が減り、戦略会議は「14年に比べ改善が見られる」と評価したものの、主な要因は外国人住民の増加だとして「少子化傾向は変わっていない」と警鐘を鳴らした。

 山陰両県を見ると、島根は14年の16市町村から4市町に、鳥取は13町から8町に、それぞれ減少。特に島根については、岸田文雄首相がシンポジウムに寄せたビデオメッセージで減少を取り上げ「これらの自治体は、地域ぐるみの子育て支援や若者の地方移住などに地道に取り組んできており、その成果が表れている」と称賛した。

 とはいえ、現場の認識は異なる。江津市は若年女性人口減少率が8・7ポイント改善し「消滅可能性」自治体から脱却した。一方で人口は14年度末と比べ13・7%も減少。中村中市長は「出生数も100人前後に落ち込み、歯止めがかかっているわけではない」と危機感をにじませた。

 実態とかみ合わないデータ。「日本社会全体の問題なのに、自治体ごとに取り組むべき課題のように誤った世論誘導をしている」という島根県の丸山達也知事の指摘が、その原因を言い表している。

 「消滅可能性」という強い表現を使った14年の公表は、政府が東京一極集中の是正を目標とする「地方創生」を始める契機にもなった。一方、この10年間で多くの自治体が移住者の呼び込みを推進したことで、近隣自治体間による人口の〝争奪戦〟が発生。その結果は「勝ち組」と「負け組」を生み出しただけで、国全体での出生率の向上には結び付いていない。

 新型コロナウイルス禍が明けて、再び東京一極集中が加速している。少子化改善に向け、正すべきはこれだろう。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」を22年で見ると沖縄1・70、宮崎1・63、鳥取1・60、島根1・57の順で続き、東京は最下位の1・04。東京一極集中の是正と地方創生は少子化改善に直結する。政府には本腰を入れてほしい。

 そもそも20~30代女性の人口というデータの取り方も、女性に少子化問題の責任を押し付けているようで、釈然としない。

 少子化の最大の原因は非婚化と晩婚化にある。これは女性だけではなく、男性にも当てはまる。雇用が不安定で将来の生活設計が立てられない、仕事と家庭・育児の両立が困難…。こうした障害を取り除くため、社会全体でやるべきことは多い。