島根原発2号機の運転差し止め仮処分を却下する決定を受け、「司法は住民を見捨てた」などと記された幕を掲げる申立人=松江市母衣町、広島高裁松江支部
島根原発2号機の運転差し止め仮処分を却下する決定を受け、「司法は住民を見捨てた」などと記された幕を掲げる申立人=松江市母衣町、広島高裁松江支部
決定骨子
決定骨子
島根原発2号機の運転差し止め仮処分を却下する決定を受け、「司法は住民を見捨てた」などと記された幕を掲げる申立人=松江市母衣町、広島高裁松江支部
決定骨子

 中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の運転差し止めを島根、鳥取両県内の住民が求めた仮処分で、広島高裁松江支部(松谷佳樹裁判長)が15日、差し止めを認めない決定を出した。島根原発で運転差し止めに関する仮処分判断は初めて。決定理由で「異常な水準で放射性物質が原発敷地外に放出される重大事故の具体的な危険性があるとは言えない」と指摘した。
(高見維吹、新藤正春、小引久実)

 住民側は、最高裁への不服申し立てはしない方針。係争中の運転差し止め訴訟の控訴審で、引き続き争う。

 決定書によると、中電が設定した820ガルの基準地震動(耐震設計の目安となる地震の揺れ)は、地質構造などの地域性を考慮して保守的に評価しており、原子力規制委員会の審査も「過誤、欠落があるとも言えない」と言及した。

 1月の能登半島地震を受けて住民側が主張した避難計画の不備は「(主張の前提となる)重大事故が発生する具体的危険性について証拠を伴う主張がない」として退け、避難計画の内容や実効性には触れなかった。三瓶山(大田市)の大規模噴火による敷地内降灰のリスクは、文献や地質調査から層厚の火砕物が降下する恐れがあるとは認められないと指摘した。

 島根2号機の運転差し止め訴訟は、島根3号機増設時の調査で確認された宍道断層の評価に問題があるとして住民側が1999年4月に提訴。2010年5月に松江地裁が請求を棄却し、住民側は控訴した。

 控訴審は係争中で、判決確定までに時間がかかるため、住民側が23年3月に仮処分を申し立てた。高裁は24年2月までに双方の意見を聴く審尋手続きを非公開で計4回実施した。住民側は稼働によって人格権が侵害されると主張。中電は危険性の具体的な指摘がないと反論し、申し立て却下を求めていた。

 島根2号機は、事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型で、出力は82万キロワット。1989年2月に営業運転を始め、定期検査のため2012年1月から停止中。中電は8月の再稼働を計画したが、安全対策工事の遅れで12月に延期した。島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地し、避難計画の策定が必要な30キロ圏の6市に約45万人が暮らす。 

 

 残念で悔しい

 原告団長を務める芦原康江元松江市議 本当に残念で悔しい気持ちでいっぱいだ。司法が国の政治的な方針や電力会社の利益を優先する思考に陥っているのではないかと思わざるを得ない。私たちにはまだ本訴(島根原発2号機差し止め訴訟)が残されており、再稼働を止める判決を勝ち取りたい。

 

 妥当な決定

 中電コンプライアンス推進部門・高見和徳総務部長

 安全性の確保や原子力災害対策などに関する主張が裁判所に認められ、妥当な決定だと受け止めている。電力を安く、かつ安定的に供給するには、安全を大前提とした原子力発電所の利用は必要不可欠となる。地域住民に信頼される発電所を目指す。

 

 

 ズーム・仮処分

 民事保全法で規定された手続きで、時間がかかる通常訴訟の判決確定までの間、著しい損害や差し迫った危険が生じないよう暫定的な措置を求める制度。審理は迅速に進み、決定は直ちに効力が生じる。今回、住民側は島根原発2号機が再稼働すれば人格権が侵害されると主張し、運転差し止めを求めていた。全国で原発の運転差し止めを命じた仮処分は4例ある。