広島高裁松江支部が15日、島根、鳥取両県の住民が求めた中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)運転差し止めの仮処分の申し立てを退けた。決定を受け、住民側は「思考が停止した判決で、断じて容認できない」と批判。中電は「妥当な決定」と評価し、改めて12月の再稼働を目指す考えを示した。
「行政追従の思考停止決定だ」-。15日正午、島根県教育会館(松江市母衣町)の報告会場で約40人の関係者が見守る中、住民側の弁護団の一人、海渡雄一弁護士が残念がった。
1時間半以上続いた報告会。申立人の住民と弁護団計8人の表情は終始険しかった。マイクを握って話す人を除き、口を真一文字に結び、一点だけを見つめていた。
運転差し止めが認められる感触を持っていた。裁判所が双方から意見を聴く審尋手続きは住民側の提案で、プレゼン形式の意見陳述を採用。裁判官は熱心に耳を傾けていたという。申立人で、控訴審の原告団長を務める芦原康江元松江市議は「一筋の光が見えたと思った」と振り返った。
ただ、結果は申し立てを退ける内容。1月の能登半島地震を踏まえ、家屋倒壊や避難経路の寸断リスクなどを挙げて「逃げられない」と訴えた避難計画も具体的な言及がなかった。
島根2号機の運転差し止め訴訟は1999年4月に始まり、四半世紀が過ぎた。第一審は松江地裁が請求を棄却。今回、広島高裁松江支部に申し立てた仮処分も認められなかった。
住民側は、最高裁への特別抗告や許可抗告はしない方針。芦原元松江市議は「諦めてはいない。再稼働を止めるためにあらゆる手を尽くしたい」と強い口調で訴えた。水野彰子弁護士は「裁判所が判断を逃げたところを、逃げさせないように本訴で追及したい。裁判を通じて、社会に問題点を発信、提供し、議論を起こしたい」との考えを示した。
一方、中電は島根支社(松江市母衣町)で記者会見し、コンプライアンス推進部門・高見和徳総務部長は「安全性の確保や原子力災害対策などに関する主張が認められた」と淡々と受け止めた。住民側に限らず、原発の安全性への懸念が残っている点は「これまでと同様、さまざまな機会を通じて原子力の必要性や安全対策を説明していく」と強調した。(高見維吹、新藤正春、小引久実)