米国のミュージシャン、ライ・クーダーが数多く手がけた映画音楽の中で、代表作といえば「パリ、テキサス」(ビム・ベンダース監督、1984年)だろう。ほぼスライドギターだけで表現した、かなり特異なサウンドトラックでありながら、映し出される物語と見事に調和し、映画を忘れがたいものにした。
この作品がT・ジョイ出雲(出雲市)で6日まで、リバイバル上映中。世に出てから40年を経た今、映画館で味わえたのは僥倖(ぎょうこう)だった。
離れ離れになった家族の物語である。主人公の男が砂漠をさまよう冒頭の場面。不気味な弦の響きが、死をも想像させ、一気に引き込まれる。その後も場面場面でライのスライドギターがさえ渡る。デビッド・リンドレーとジム・ディッキンソンの演奏はあくまで脇役。「ギター一本でここまでできるのか」と驚かされる。
幸せだった頃の回想場面に流れるメキシカン・トラディショナル「カンシオン・ミクステカ」のギターは切なく、美しい。クライマックスとなる、ある場所での対話シーンで流れたときには、もう涙腺が…。劇中は演奏のみだが、サウンドトラック・アルバムに収録されているのは主人公を演じる俳優ハリー・ディーン・スタントンの歌入り。これがまた素晴らしい。
スクリーン観賞の余韻に浸りながら久々にアルバムに聞き入っている。(洋)