4月に死去した「魂のピアニスト」フジコ・ヘミングさんの代名詞『ラ・カンパネラ』は、リスト(1811~86年)が作曲した。同時代にショパン(1810~49年)がいた。ともにピアノの名手で名曲を残したが、歩みは異なる。
リストは演奏、作曲に指揮者、指導者の顔も持ち、大成した弟子が多い。ショパンはいちずにピアノ音楽を追究した。違いは没後の知名度の差となり、多面的なリストよりショパンの方が有名だ。
故郷と呼べるものの有無も後の顕彰活動に影響する。リストはドイツ出身の両親の下、ハンガリーで生まれ、早くから欧州各地を拠点とした。ショパンは母国ポーランドからパリに移って以降も愛国者で、現在母国で開催するショパン国際ピアノコンクールは世界的に注目される。
松江ゆかりの明治の文豪ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の足跡はリストに近い。ギリシャ、英米など各国を転々とし来日後も松江、熊本、神戸、東京と居を移した。文筆家、新聞記者、英語教師、大学講師と肩書も多彩。多面性や外国出身は不利と思いきや、松江市に記念館があり、顕彰される。
来年秋に始まるNHK連続テレビ小説の主人公は八雲の妻セツがモデル。八雲は近代化の中で失われそうな日本の民話、神話などを拾った。特に名著『怪談』の執筆で果たしたセツの貢献は大きいとされる。2人の歩みがどう描かれるのか、想像が膨らむ。(板)