社会学者の上野千鶴子さん。先日、米誌タイムの2024年版「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた
社会学者の上野千鶴子さん。先日、米誌タイムの2024年版「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた

 「結婚を考えている相手がいるが、その人の家に嫁ぐことが前提で話が進んでいて、もやもやする」。「地元の行事で男女の役割が固定化している。どうやったら意識を変えられるでしょう」▼大田市で先日講演したジェンダー研究の先駆者で社会学者の上野千鶴子さん(75)に、島根県内の大学生がした質問だ。前時代的な悩みを、今の若者も抱えているのかと驚いたのはさておき、答えは明快だった。前者には「そんな男やめなはれ」。後者には「その愚痴は届いてないの? のみ込んだままでは変わらないよ」▼長く大学で教える上野さんは卒業後に会う教え子の女性に「職場でお茶くみしてんの?」と聞く。「してないですよ」と笑う彼女たちに「うちらが頑張ったからじゃ」と返し、続ける。「職場で浮いて、嫌がられながらも『何で私たちがしなくちゃいけないの』と言った誰かがいたから変わったんだ」と▼セクハラの不法行為化、学校での男女混合名簿や家庭科の男女共修の実現などは、先人たちが声を上げたたまものだ。一方で冒頭の2人の学生が抱える「もやもや」は、変えられなかった私たちに責任の一端があるかもしれない▼「被害者で居続けることは、次の誰かにとっては加害者になっている」と上野さんは言った。これは万事に当てはまる。だから、おかしいことにはわきまえない、面倒くさい、うるさい人になろう。今以上に…。(衣)