政府は、東京都に4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を8月22日まで発令する。厳戒態勢の下で、2週間後からの東京五輪の都内会場は原則無観客となる方向だ。
先の宣言を解除し「まん延防止等重点措置」に移行してから3週間で、直前まで検討していた同措置延長では対応できない状況に至った。解除後の感染再拡大を予測した専門家の意見を軽視し、変異株拡大、人流増加に有効に対処できなかった政府の状況認識は甘かったと言わざるを得ない。
東京などへの緊急事態宣言を6月20日までで解除した際、菅義偉首相は「大きなリバウンドを何より警戒する」と強調。そのため政府は五輪開幕までに感染を抑え込もうと、宣言に準じたまん延防止措置を長めに適用した。だが、その時点で東京の新規感染者数は増加に転じており、専門家は「リバウンドの状況ではないか」と指摘。7、8月に再宣言が必要になる恐れがあると警告していた。
また専門家は、感染力が従来株より2倍近く強いインド由来のデルタ株の占める割合が五輪開幕時に約7割に達するとの試算も示した。それでも政府は宣言解除後に酒類提供を条件付きで午後7時まで容認。五輪を見据えて、まん延防止措置解除後にはイベント観客数上限を定員の50%以内であれば1万人まで認める方針も表明していた。
これらが、若者を中心として自粛疲れした人々に「緩み」を与えたと見ざるを得ない。内閣官房のまとめでは、宣言解除から1週間で東京の主要地点の人出は発令前だった4月中旬時点の水準に戻ってしまった。
その結果、東京の新規感染者は7日に920人と、宣言中だった5月半ば以来の多さとなった。新規感染者は20、30代が全体の7割近くを占める。入院者と重症者は50代以下を中心に増え、ワクチン接種が進んだ高齢者に替わって現役世代が医療逼(ひっ)迫(ぱく)の誘因になってきたことを政府は重く受け止めるべきだ。
首相がコロナ収束へ頼みの綱とするワクチン接種も、供給不足や運用の不備によりペースダウンを余儀なくされた。米モデルナ製を使う職場接種が新規申請受け付け停止になったのに加え、米ファイザー製を使用する自治体による住民接種も滞っている。予約受け付けを停止、制限した自治体は共同通信のまとめで、少なくとも67市区町に上る状況だ。
接種予約ができなくなった人々の不安は膨らんでいる。メーカーの生産を急に増やすのは難しいだろう。自治体や医療機関に滞留する在庫を解消するなど政府は早急に打てる手を打ってほしい。
東京は、感染状況を判断する指標のうち新規感染者数などが最も深刻なステージ4(爆発的感染拡大)に達している。東京五輪は、感染拡大の「第5波」が現実味を帯びた中で迎える。政府が今、全力を尽くすべきは、各国からの五輪選手団・関係者らに限らず、スタジアムの外で日々の暮らしを送り、間もなく夏休み、盆休みを迎えようとしている大多数の国民の命と健康を守ることだ。
五輪のテレビ観戦や在宅勤務の励行、昼夜を問わない不要不急の外出抑制、ワクチン接種と両立させながらのコロナ感染者への医療提供体制整備、そして「3密回避」の基本に立ち返り、官民挙げて取り得る対策を総動員するほかあるまい。