クマに遭遇した現場近くで状況を再現する永井秀司さん=江津市浅利町
クマに遭遇した現場近くで状況を再現する永井秀司さん=江津市浅利町

 6月29日早朝、江津市浅利町の菰沢公園内を散歩中にクマに遭遇し、とっさのつま先蹴りで撃退した男性が5日取材に応じた。「やるか、やられるかの状況だった」と緊迫した場面を振り返った。

 男性は近くに住む永井秀司さん(63)。菰沢公園は日課の散歩コースの一つで、クマを警戒して鈴と笛を首にかけて歩く。

 29日午前6時半ごろ、公園のオートキャンプ場手前を折り返し歩き進むと、後ろに何か気配を感じた。振り返ると、約5メートル先に体長1メートルを超えるクマの成獣がいて、四つ足でゆっくりと向かってきた。首にかけた笛を鳴らす間もなく「何かしないとやられる」とスニーカーの右足で思いきり蹴り上げた。

 足首の角度は90度。顎にヒットし、親指の付け根に感触がしっかり残った。クマはグルグルとうなり声を上げ、逃げ去る際に口元に血が見えたという。助かったという思いで、急に動悸(どうき)がして冷や汗が流れ出た。

 永井さんは中学時代は柔道部。サッカーや空手の経験はない。「もし空振りしていたら、どうなっていたか。命はなかったかもしれない」。思い起こすと今でも怖い。

 県によると、2024年度のツキノワグマの目撃件数は4~6月で571件。うち6月だけで307件を占め、14年度以降で最多。特に人里で目撃されるケースが多く、注意が必要だ。

 今回の対処に、島根県中山間地域研究センター鳥獣対策科の田川哲係長は「運が良かったケース。攻撃すると興奮して反撃が苛烈になるおそれがある」と注意を促す。後ろ向きに逃げるとクマは追いかける習性があり、最善の対処法は「その場で首の後ろに手を組んでうつぶせ姿勢を取ること」とした。

 (吉田雅史)