徒歩で崩落現場を迂回(うかい)し、迎えのバスに乗り込む観光客=10日、出雲市大社町日御碕
徒歩で崩落現場を迂回(うかい)し、迎えのバスに乗り込む観光客=10日、出雲市大社町日御碕

 島根県東部を襲った豪雨から一夜明けた10日、道路崩落で孤立状態が続く出雲市大社町日御碕地区の住民は「いつまで耐えればいいのか」と長期化への不安を募らせた。見込めない道路の早期復旧。行政は物資の輸送方法の検討に追われ、書き入れ時を迎える観光施設は、予約客への説明を始めた。観測史上最大の降水量を記録した松江市では、かさ上げした箇所が氾濫。抜本的な対策の必要性があらためて浮かび上がった。(取材班)

 

 「情報がほしい」「復旧はいつなのか」。海に囲まれ、交通アクセスが限られる出雲市大社町日御碕地区。孤立した住民からは医療体制や子どもの通学に対する不安の声が聞かれた。物資搬入ルートがまだ確保されておらず、食料の確保を懸念する声も。早く元の生活に戻れるようにと願う声が上がった。

 50代の会社員男性は大雨が降った9日、会社の寮に宿泊した。自宅には親と息子が暮らしており「どんな状況なのかが分からず、ずっと心配している。情報がほしい」と漏らした。

 車は通れないが、崩落現場付近の私有地を通って徒歩で往来できる。ただ、私有地の状況を確認した日御碕コミュニティセンターの園山暢男センター長は「足場が悪く、(高齢者や病人は)簡単には歩いて渡れない。今後の方法の検討が必要だ」と話した。

 地区内に学校がなく、子どもたちの勉強の遅れを懸念するのは、中学2年と小学5年の息子と、3歳の長女を育てる団体職員の安田大輔さん(38)。「何としても早い復旧を」と願った。

 孤立が長期化すれば、食料品などに支障が出る。1人暮らしの浅津英子さん(88)は毎週末、自宅を訪問する長男の車に乗って出雲市街地に1週間分の買い物に出かけており「自動車が通れないと買い物に行けない。必需品は2~3日分はあるが、いつまで我慢すればいいのか」と不安そうに話した。

 日御碕地区では、地区災害対策本部が午前と午後に開かれ、自治会長や民生児童員ら約10人が被害状況などを確認し、現地も視察した。11日は13町内会の地区担当者が集まり、地区ごとに情報収集を行う。

 10日午後に現地を視察した飯塚俊之市長は「早急に復旧できるように国や県、地元の人の力を借り、全力で支援する」と述べた。

 

宿泊者65人、混乱なく/書き入れ時 観光痛手

 孤立した日御碕地区には9日、旅館と民宿に計65人の宿泊者と従業員21人がいた。島根県災害対策本部によると、滞在を希望した1人を除いた宿泊者の全員が10日夕までに船やバスなどで出雲市の市街地方面へ待避した。

 日御碕灯台のそばにあるリゾート温泉旅館「界 出雲」では、9日午後9時半ごろの館内放送で、孤立状態にあることが宿泊者に知らされた。

 ただ、電気などのライフラインが通っていたため大きな混乱はなかった。友人と横浜市から訪れた会社員女性(29)は「初めての経験でびっくりした。スタッフが親身に対応してくれて、他のお客さんも落ち着いた様子だった」と話した。

 一夜明け、地区内の宇龍港に寄港した国土交通省の小型船舶に11人の宿泊者らが乗り込み、出雲市大社町大社港へ。残りは、崩落地点に近い私有地を徒歩で通り抜けて、待ち構えていたバスで出雲市大社町の市街地へ向かった。

 家族と共に自家用車で訪れた広島県福山市の会社員男性(65)は崩落した県道の復旧見通しが立たないため、駐車場に置いてきた車をいつ取りに行けるのか気をもむ。出雲にずっと滞在しているわけにもいかず「見込みでもいいので進み具合を教えてほしい」と願った。

 取り残された日御碕はこれから観光で書き入れ時を迎えるはずだっただけに関係者の落胆の色は濃い。

 「界 出雲」を運営する星野リゾートによると、建物に被害はないが、道路の復旧が見通せないため、24日までは休業。13~15日の3連休は39室ある客室がほぼ満室の予約が入っていたというが、一件一件電話で説明し、キャンセルの手続きを取っているという。

 観光案内所の「日御碕ビジターセンター」も閉鎖を余儀なくされ、予約が入っていたガイドのキャンセルの手続きを進める。センターを運営する出雲観光協会古島尚総務係長(45)は「観光への影響は大きいと思うが、早い復旧を願うばかりだ」とした。