「真打ち」は、落語界で技量が最上級の人を意味する。その真打ちに、松江市出身の立川幸之進(たてかわ・こうのしん)(44)=本名・石飛優介=が2025年5月に昇進する。東京の落語界で山陰両県出身者としては初めてという。表面的にはひょうひょうと、内面では強い決意をにじませる姿を追った。(interviewer・新藤正春)

 

 今年5月下旬、昇進の発表からわずか5日後、松江市内で落語会があり、偶然にも故郷に錦を飾ることになった。130人が集まった客席からは当然、「おめでとう」の声がかかる。

 「今日、地元で落語会ができるのも何かの縁。一生懸命に頑張りたい」と報告は控えめ。有名演目「火焔太鼓(かえんだいこ)」で会を締めくくり、花束を受け取ると「少しずつ精進しうまくなりたい」と、そこでも謙虚だった。

落語会の主催者から受け取った花束を手に来場者にあいさつする立川幸之進=5月26日、松江市千鳥町、市総合福祉センター  

入門22年目での昇進

 冷静な反応には、理由がある。真打ちになれば、寄席の最後を飾る「トリ」を務める資格が得られ、弟子も取れる。「師匠」と呼ばれるようになる。もちろん昇進に喜びはあるが必要以上に重たく捉えていない。

 というのも落語界の状況があるからだ。東京の落語家は総勢約600人。落語協会と落語芸術協会に加え、落語立川流、五代目円楽一門会という二つの独立団体があり、基本的にいずれかに所属する。

 入門後、前座、二つ目、真打ちの順に昇進するが、前座が合計で約50人、二つ目が約150人、真打ちが約400人と上がるにつれて人数が増え、逆ピラミッドの構図となっている。
 

 

 年功序列の仕組みがもたらした。所属先で異なるが真打ちには、早ければ入門後約10年、多くは15年程度で昇進する。幸之進の入門22年目での真打ち昇進は、途中で所属先の移籍という紆余(うよ)曲折があり、時間がかかった方だ。

 幸之進は2004年に、立川流の立川談幸(だんこう)に入門した。立川流は名人とうたわれる七代目立川談志(2011年死去)が、1983年に落語協会を脱会し、弟子たちを引き連れて創設した団体で、談志から見れば幸之進は孫弟子に当たる。...