誰しも、何か「才能」を持って生まれてくる。才能が開花し、活躍する人がいる一方、自分の才能に気づかず人生を終える人も多い。芸術家、野﨑千愛季(19)はおそらく前者だ。絵画から立体造形まで、頭に次々と浮かぶイメージを具体化し、生み出す作品は人々を驚かせる。周囲とは違う生き方を選び、創作の時間を得るために定時制・通信制高校を選んだ。リアリズムの追求に始まった創作テーマはいま、壮大な「戦争と平和」に移った。全国からも注目される松江の若き異才はどのように誕生したのか。(interviewer・白築昂)
 


 

1日10時間以上の創作


 2022年11月、X(旧Twitter)上に投稿されたニュース記事に、多くの感嘆のコメントが集まった。

 「天賦の才」「これで高校生とは…」「すごすぎて語彙力がなくなる」

 紹介していたのは「姫」と名付けられた高さ約70センチの人形だった。粘土で顔の筋肉や歯の1本1本まで作り込み、衣装も自作。本物の人間と見まがうような写実性と独特の世界観が評価され22年11月、全国の美術関係高校の生徒などが出品する「美術工芸甲子園」で全72点中、最高賞の大賞に山陰の高校生として初めて輝いた。

美術工芸甲子園で最高の大賞に選ばれた「姫」


 受賞した野﨑は当時、宍道高校(松江市宍道町宍道)通信制の3年だった。誰かに見せるでもなく自宅の部屋にこもって1日10時間以上、創作を続けるうちに、生み出す作品の完成度は誰もが驚くレベルに達していた。
 

正解を知るのは自分だけ


 美術工芸甲子園の審査員が何より驚いたのは、野﨑が誰の指導も受けず、独学で極めて芸術性の高い作品を生み出したことだった。
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