占い師に言われた。

 「人間は空の上で”どう生きるか”を決めて生まれてくる」

 自らを客観的に見つめながら野﨑千愛季(19)は笑った。「生まれる前に決め過ぎたのかもしれません」。今、打ち込んでいる創作に迷いがない。

 毎朝、目覚めて食事を済ませ、自宅のアトリエに入り、ラジオをつける。パレットにアクリル絵の具を落とす。水で筆を湿らせる。ラジオに流れるはやりの音楽や時事ニュースの声に交じり、キャンバスに絵の具を落とす「トットットッ」という音が鳴り始める。



 少し塗っては距離を取り、全体のバランスを確認してまた塗る。時折、部屋の鏡に映る作品を見つめるのは「客観的な視点に立つため」だ。現在、描くのは新潟県内の美術館が若い精鋭作家の発掘を目的に開く「フィレンツェ賞展」の出品作。地球上で2人の人間が向き合い、対話している。
 

逃げることはできない


 2023年11月、日本最大級の公募展「日展」に初出品し、入選した。「命のいろ」と名付けた高さ80センチの人形は、炭鉱労働者が地上に上がって空の青さや太陽の光を浴び、両手を伸ばして喜ぶ姿を表現。昨年、新型コロナウイルスが5類へ移行し、生活が徐々に日常へ戻り始めたことから着想した。その頃から戦争と平和がテーマになってきた。

創作に没頭する野﨑千愛季=5月下旬、松江市内

 立体造形を始めた3年前はひたすら技術を磨くことに集中し、2年目はメッセージ性を意識した。そして迎えた3年目。創作は、すごみを増す。「より世界に求められているものを」と明確な意思がある。
...