会社に勤める人は多いが、代表取締役になる人は一握りだ。吉岡佐和子(57)は今年、創業145年を迎えた山陰合同銀行(本社・松江市魚町)で、女性として初めて代表取締役専務執行役員に就任した。約1800人いる行員の中で、会社を代表する権限を持つのはトップの頭取を含めて3人しかいない。全国の金融機関、そして働く女性たちが注目する彼女はどのような人生を歩んできたのか。(interviewer・佐野翔一)
 

指摘された未熟さ

 今年2月下旬、執行役員会議の前に頭取の山崎徹に呼び出された吉岡は、こう告げられた。「これからは代表取締役だ」。「えっ、まさか」

頭取の山崎徹(左)と協議する吉岡佐和子=松江市魚町、山陰合同銀行

 6月20日にあった株主総会と取締役会で承認され、山陰合銀の代表取締役専務執行役員に正式に就任した。

 短大を卒業後、1987年に山陰合銀に入行して、37年。キャリアを重ねてここまで来たが、道のりは決して平たんではなかった。

 初任店となった松江市内の支店では上司と折り合わず、「入行2年目で辞めようと思った」。

 窓口や事務作業でミスを起こすと、事情を話しても聞き入れられず、怒鳴られた。一緒に仕事をするのが嫌になり、「上司を変えてほしい」と支店長に直談判することさえあった。

 「上司にも問題があるかもしれないが、年配の相手を無理に変えるより、あなた自身が変わる方が良いのではないか」。支店長に諭された。反発してばかりいても良い関係を築ける訳はなく、自分の未熟さに気付かされた。

初任店の島大前支店で勤務する吉岡(1991年頃)

 それまで上司と仕事以外の会話はしてこなかったが、年の近い同僚を巻き込んで、その上司をよく見て、プライベートの話をするように心がけた。「今日のネクタイいいですね」「週末どこにいきましたか?」...