大人になってもっと地元が好きになっています。「いいよ、戻っておいで」。電話口でお父さんの声を聞いた時、三島大輝さんの目には涙が浮かんでいました。

交通事故から看護師の道へ

 野球少年だった大輝さんが将来を意識したのは中学生の頃。水郷祭の花火を見るため自転車を走らせていた時に遭った交通事故がきっかけでした。

「看護師の母が勤める松江赤十字病院に、血だらけで運ばれたそうです。母が看護をしてくれたんですが、すごく心強くて。看護師って人に寄り添う素晴らしい仕事なんだって思ったんです」

 高校卒業後は大阪の看護学校へ。背中を押してくれたのはお父さんの「島根を出て都会を経験した方がいい」という言葉でした。

 「父も若い頃大阪にいたので、勧めてくれたんです。専門学校を卒業した後はそのまま看護師として大阪の医療センターに就職して4年間働きました。だから学生時代から大阪には7年間いたことになります。刺激的でしたね。人が多くて出会いもあるし、仕事も忙しかったですし。はじめての一人暮らしで、家事の大変さも痛感しました(笑)」

きっかけは父との電話

 都会の楽しさを満喫する一方で、忙しさに翻弄され精神的に落ち込んだ時期もあったといいます。
「仕事が忙しくて部屋を片付ける余裕がなく、切れた電球を替える気力さえ湧かないんです。ぐちゃぐちゃに散らかった暗い部屋で、ひとり家に持ち帰った仕事を遅くまでやって、遊びの誘いも断って。そんな時でした、島根に帰りたいなと、父に電話したのは。弱音を吐くつもりなんてなかったのに、父の声を聞いたら泣いてしまいました。父は詳しいことは聞かず『いいよ、帰っておいで』って」

 松江へ戻って、思い入れのある松江赤十字病院で看護師として働く。大輝さんはUターンの思いを固めました。

妻との出会い

 後に妻となる、なつさんとの交際が始まったのは、大輝さんの大阪での送別会がきっかけでした。なつさんも同じ看護師で大阪の職場の同僚です。交際スタートとほぼ同時に島根・大阪の遠距離恋愛。なつさんが島根に訪れるたび大輝さんは島根の魅力を案内したといいます。その甲斐もあり2023年には、なつさんも島根に移住し結婚。現在は大輝さんと同じ松江赤十字病院に勤務しています。

 「大阪以外で暮らしたことがなかったので不安でした」と、なつさんは当時を振り返ります。
「心配でしたけど想像していたより便利で暮らしやすくて。ご飯も美味しいし飲み屋街もあるし大阪や広島へも出やすいですし、何より人が優しいんですよね。ゆっくり運転してもあおられない(笑)。川沿いを歩くと鴨や鷺とか鳥たちがいて、夜には星を眺めたり、夏は海に行って。おだやかで暮らしやすくて、大好きな場所になりました」(なつさん)

大人になって発見した島根

休日は松江城山公園を散歩したり、ドライブして夕日を見るのがお気に入り。

 自然の近さと都市的な賑わいのちょうどいいバランス。なつさんが感じる島根暮らしの魅力は、大輝さんにとっても代えがたいものだといいます。

 「妻に島根を案内しながら、僕自身が島根の良さに改めて気づいたんです。宍道湖の夕日がきれいなこと。街には川が流れていてそこを遊覧船が行き交っていて、夏には水郷祭があって、梅雨には月照寺の紫陽花を見に行ったり。蕎麦が美味しくて、妻とふたり飲み歩くのも楽しい。こんなきれいで楽しい場所だったのかって思いましたね」

 松江へ戻って2年が過ぎた今、Uターンの決断をどう感じるのでしょう。「島根は人が優しくて仕事も穏やかな気持ちで取り組めています。正直、最初は自分のために地元に戻ってきたんです。自分の都合で決めたことなのに両親がすごく喜んでくれたんですよね。それに妻も島根に移り住んでくれて、僕の故郷を好きになってくれました。Iターンの妻を家族も近所の人もやさしく受け入れてくれています。自分が地元に帰ることで、大切な人たちがつながって、みんなが喜んでくれる。すごいことですよね。

 思えば、高校までの18年間は島根の良さを本当には分かっていなかったなと思います。地元に戻って、妻と一緒に島根県内を周りながら島根の良さを発見し直していますし、大人になってもっと地元が好きになっています」

三島さんの大切な人

両親=三島健吉さん(左)、幸枝さん(右)

父 健吉さん
 「大阪に送り出したとき、いずれは帰ってきてほしいと思っていました。このタイミングだったのは良かったと感じています。物事の進むスピードが速い都会で経験を積んで、今は松江で自信を持って仕事ができているんじゃないかな。たくましくなったなと思います。これからも見守っていきたいし、2人には自然体で過ごしてもらえればいいなと思いますね」

母 幸枝さん
 「大輝もなつも私と同じ病院で働いているのは、うれしいような照れくさいような。島根に帰ってきてくれて安心感はあります。若い人が入ってくれて職場も活性化しますから。看護師はハードな仕事なのでお互いに思いやりながら頑張ってほしいですね。私も料理を作ってふたりのアパートに持っていくこともあります。これからも支えていけたらと思います」

PROFILE 三島 大輝さん

三島大輝さん 1996年松江市生まれ。母の影響から看護師を目指し大阪の看護専門学校へ進学。卒業後は大阪の医療センターに4年間勤務。2022年にUターンし、看護師として松江赤十字病院に勤務。2023年、なつさんの松江移住を機に入籍。現在は夫婦とも看護師として松江赤十字病院に勤務。夫婦の夏の楽しみは北浦海水浴場でのSUPや、マリンパーク多古鼻でのアウトドア。

(文:山若マサヤ 写真:七咲友梨)

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<提供:島根県>