島の子たちが人生に迷った時に帰ってくる場所になれたら最高です(祐太郎さん)

彼の夢が、自分の夢にもつながっているんです(香さん)

 連日約200個近くが完売する隠岐の島町唯一のドーナツ専門店「Bakehouse BENCH」。2023年にオープンしたこちらのお店を切り盛りするのは、ともに地元出身の森口祐太郎さん・香さん夫妻です。

都会好きと島好きのふたり

 祐太郎さんは高校を卒業後、18歳で東京の専門学校へ。とにかく地元を離れたかったと当時を振り返ります。

 「なにもない田舎が嫌で、都会に行きたかったんですよね。島の外にしかないハンバーガー屋やピザ屋に強烈に憧れがありました。東京時代はバンドをやりながら飲食店で働きました。ハンバーガー屋に勤めたり大阪で兄貴のラーメン屋を手伝ったり。いつか自分の店を持ちたいとは思っていましたけど、地元に帰るイメージはなかったですね」(祐太郎さん)

 一方の香さんは高校卒業とともに地元の銀行に就職。20歳で退職し、広島の専門学校へ進み建築を学びます。

 「小さな頃から建築やインテリアの仕事に憧れがあったんです。一旦は就職したけど勉強し直すつもりで広島の学校へ行きました。うちは父子家庭で、父は土木技師として働きながら私を育ててくれたんです。そんな父の影響もあって卒業後は父のように島で働くつもりでした。地元が好きなのもありましたね。ゆっくり流れる島の時間はやっぱり特別だなって」(香さん)

家庭を持っても諦めなかった夢

 都会に惹かれた祐太郎さんと、穏やかな地元を愛する香さん。同じ町出身とはいえ接点がなかったふたりですが、祐太郎さんがUターンしたことでそれぞれの人生が重なり合うことに。

 「僕が東京で働いていた時、休憩中にふと高校生の頃を思い出したんです。浮かぶのは放課後、地元の飲食店に友達と集まって喋っていた時間です。退屈だと思っていた地元ですけど、その店で過ごした時間は間違いなく最高の思い出で。その時ですね、地元で夢を叶えることを考えはじめたのは」(祐太郎さん)

 そうして20代半ばで隠岐の島町へ戻った祐太郎さん。夢の実現に向けてまずは役場や民間企業に勤めます。やがて友人の紹介で香さんと付き合って3ヶ月で結婚。30代で子どもを授かりました。一方の香さんは広島の学校を卒業しUターン。隠岐の島町役場初の女性土木技師として活躍していました。安定した生活に見えますが、ふたりの夢への思いは消えてはいませんでした。

3人の子供を授かり、いつも笑い声が絶えない

仕事を辞めて夫婦で店づくり

 祐太郎さんの飲食への思いが再燃したきっかけは大阪への家族旅行で食べたドーナツ。その美味しさとドーナツ店に人が集う風景に衝撃を受け、趣味としてドーナツ作りに没頭。家族やご近所さんに振る舞ううちに評判に。香さんの後押しもあり近所のお店で週末販売を始めると大好評。夫婦でドーナツ店の開業を決意します。そこには、役場の仕事を辞めて背中を押す香さんの熱意がありました。
 

祐太郎さんが作るドーナツはリピーターが多い

 「彼のドーナツが美味しすぎて、この味をもっと知ってもらいたい! って、いつの間にか私が彼のお尻を叩く側に(笑)。それに、この店の内装は私が担当したんです。子どもの頃から憧れていたインテリアの仕事に携われたのが嬉しくて。

 彼の夢が、自分の夢に重なっているんですよね。お店づくりの経験を生かして、将来は本格的にインテリアや内装の仕事に関わりたいという目標もできました」(香さん)

島を変えることはできなくても

 夫婦ふたりの夢の舞台となったドーナツ店。今では人のつながりが生まれる島の新名所になっています。

 「島の方たちが応援してくれているのを感じます。お店の物件探しも近所の方の紹介ですし、離島だから実現できたことも多いです。こうして地元でも好きな人と好きな仕事をして暮らせるということを、私たちが伝えていけたらと思います」(香さん)

 「僕自身いろいろ寄り道しましたけど、学生時代の思い出があったから、島に帰って来ようと思えました。次は僕が思い出を作る側になりたいんですよね。大きく町を変えるとか壮大なことじゃなくても、島の子たちがいつか人生に迷った時『そういえば、面白いドーナツ屋があったな』って思い出して、帰ってくる。そんなきっかけの場所になれたら最高です」(祐太郎さん)

森口さんの大切な人

京見屋分店 谷田 一子さん

 「もともとは祐太郎くんのお父さんにお世話になっていました。祐太郎くんはずっと飲食がやりたいという思いを持っていたんですが。香ちゃんと出会って彼女がサポートしてくれて、夢を叶えた時は嬉しかったですね。うちの店で、週末限定でドーナツを出した時も開店1時間前からお客さんが並んだんですよ。普段行列ができない店なのにね。とにかくおいしくて感動しました。Iターンの方たちが挑戦しているのも嬉しいですが、島で育ったUターンのふたりが頑張っている姿はすごく刺激を受けるんです。私たちも負けてられないなって。大変なこともあるけど、うちみたいに夫婦で店をやる面白さは大きいんです。ふたりに憧れる高校生もいますし、この先、島に帰って来る若い人が増えたらいいですね」

 実際にあるカリフォルニアの学校から着想を得た内装。香さんのディレクションによる空間づくりも評判の理由。

PROFILE 森口 祐太郎さん 森口 香さん

森口祐太郎さん 1986年隠岐の島町生まれ。隠岐水産高校を卒業し18歳で上京。東京の服飾専門学校を卒業した後に大阪・東京の飲食店で勤務し、2013年に帰郷。役場勤務、会社員を経て2023年島で唯一のドーナツ店「Bakehouse BENCH」をオープン。
森口 香さん 1989年隠岐の島町生まれ。隠岐高校卒業後、地元銀行に就職。建築の道を目指し20歳で退職、広島の専門学校へ。卒業後Uターンし隠岐の島町役場初の女性土木技師に。2017年に祐太郎さんと出会い結婚。3児を授かる。現在は夫婦でドーナツ店を切り盛りする。

(文:山若マサヤ 写真:七咲友梨)
 

【しまねのお仕事・住まい探しや移住支援制度、各種イベント情報など、Uターン・Iターンしたい皆さんに役立つ情報を紹介するポータルサイト「くらしまねっと」はこちら

【県外の相談窓口はこちら

ふるさと定住・雇用情報コーナー
東京 TEL:0120-60-2357
大阪 TEL:0120-70-2357
広島 TEL:0800-100-6435

<提供:島根県>