故郷のつながりは落ち着きますね 帰ってきて気持ちに余裕ができました

「この仕事は向いてないのかも」。大田市出身の杉原流星さんがそう思い始めたのは、広島のビルメンテナンス会社に勤務していた20歳の頃でした。
 

憧れの都会で遊んだ広島時代

 県内の工業高校を卒業し18歳で就職のため地元を離れた流星さん。広島を選んだのは、都会への憧れからでした。

 「高校を出て広島で就職して、会社の寮で暮らし始めました。島根にない店もあるし遊ぶ場所も多かったです。楽しかったですよ、仕事終わりに同僚とフットサルしたりバイクで温泉に行ったり。いい思い出です」

親元を離れて働き、自分で稼いだお金で好きに遊ぶ。刺激的な生活ですが2年が経つ頃に心境の変化が生まれます。

 「ビルメンテナンスの会社に勤めていたんですけど、基本的には繰り返しの多い仕事でした。決まった場所で同じ業務を滞りなく行うのが物足りないというか、自分に向いてないと感じてしまったんです。本当にやりたいのは、ものづくりの仕事かもしれないって思い始めました。親が車好きで僕も車やバイクをいじるのが趣味ですし、機械を扱う仕事に憧れがあったんです」

思い出すのは地元の空気感

 楽しいはずの都会で感じる、どこか満たされない気持ち。その原因は、流星さんが求めていたのが遊び場所ではなく、自分らしく働ける環境だったからかもしれません。流星さんの欠落感は、やがて生まれ故郷への思いへつながります。

 「このまま広島で働いていていいのかなって、もやもや考えていました。そういう時に思い出すのは地元のことです。土地の空気感っていうんですかね、地元のなんでもない風景が恋しくなって、休みの日にバイクに乗って帰省することが増えました。楽しかったです。山陰の山道を走ると微妙な風景の移り変わりに感動しましたし、ひっそりとした山奥で美味しいお店に出会ったり。子どもの頃に通った通学路を歩いた時とか、実家の近所を散歩した時とか、懐かしくて嬉しかったです。地元で就職したサッカー部の先輩や友達と会うのもすごくほっとしましたね。本来の自分に戻れた感じがして楽だなって」

故郷で見つけた自分らしい働きかた

 仕事で悩んでいるときに気がついた島根の魅力や、心が落ち着く仲間たちの存在。島根へ拠点を移すことを考えるのも自然な流れでした。

 「ある時、地元の先輩に連絡しました。悩んでいると相談したら、すぐ広島までバイクで駆けつけて『帰って来いよ』って言ってくれて」

 そうして2017年にUターンし、先輩のつながりで江津市内の金属加工会社に就職。現在は製品の設計を担当し、憧れていたものづくりの仕事に打ち込んでいます。

 「図面を見ながら作図し、データを作って。やっぱりものを作る仕事はいいですね。案件ごとに仕様も変わるし要望もさまざまで、それをイチから形にしていきます。工夫の連続ですし、毎日変化があって、自分の仕事が会社の売上に貢献できる実感もあります。都会じゃなくてもやりがいのある仕事があるし、好きな仕事をして自分らしく暮らせるんだってことを、帰ってきて実感しています」

都会は遊ぶ場所、地元は暮らす場所

 Uターンして7年が過ぎた現在の流星さんには、日々を楽しみ、ささやかな変化を喜ぶ余裕が感じられます。そこには、気心の知れた人たちがいて、安心できる環境の影響もあるのでしょうか。

 「たしかに、帰ってきて気持ちに余裕ができました。環境の違いは大きいですね。島根は人の温かさも感じますし、近所の人と世間話をしたり、知らない人でも挨拶したり。田舎のよさですよね。遊びに出たければ広島でも関西でもすぐ行けますし、都会はときどき行くくらいがちょうどいいのかなって今は思います。

木村さんとは20年以上の付き合い。広島時代も実家に帰るたび木村さんの働くガソリンスタンドに寄っていた。

 今年の5月に結婚しました。妻も大田市の出身で、帰ってきてから友達の集まりで出会いました。親や親戚も近くで暮らしていますし、学生時代の友達も近くにいます。今でもたまには悩みますけど、頼れる人たちがそばにいるから大丈夫です。生まれ育った故郷のつながりは心強いですし落ち着きます。やっぱり暮らすのは地元がいいですね」

会社の後輩たちと昼休憩。妻の手作り弁当を持ってくることも。

杉原さんの大切な人

地元の先輩 木村 晃さん

 「幼稚園から一緒で、社会人になってもよく遊びました。仲間想いで妥協を許さない、しっかりした子です。流星が広島に出る時は『キツかったら帰っておいで』って伝えました。広島で彼がキツそうな時に友達を連れて会いに行ったんですよね。寒い日で上着5枚ズボン3枚でバイクで峠越えて。

 コンビニで3人並んで熱々のおでんを食べましたね。当時は仕事の悩みも多かったみたいで疲れ切って見えたので『慣れた島根で仕事を探してみたら』って伝えました。給料が良くても体を壊してまで追い込むのは良くないと思うんで。

 ド真面目なんで、もう少し気楽にやってもらえたらいいですけど。腐れ縁ですからね、辛い時はまたあちこち車で遊びに出かけて悩みを聞かせてもらって、変わらず付き合っていきたいですね。

PROFILE 杉原 流星さん/広島県から江津市へUターン

杉原流星さん 1995年大田市生まれ。機械やものづくりに興味を持ち江津工業高校へ進学。卒業後は都会に憧れ広島県のビルメンテナンス会社に就職。2017年にUターン。現在は江津市の誠和商会に勤務しCADによる設計を担当。趣味は会社の後輩とのフットサルと、車とバイク。休日はドライブやキャンプやスポーツなど、島根の豊かな自然をアクティブに楽しむ。


(文:山若マサヤ 写真:七咲友梨)

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<提供:島根県>