9月の自民党総裁選への岸田文雄首相の不出馬表明を受け、後継争いが本格化している。5度目の挑戦に意欲を示す石破茂元幹事長(衆院鳥取1区、12期)は勝てるのか。世論調査の次の総裁にふさわしい人を分析すると、今回は最も善戦した2012年と似通い、自民支持層の期待が高いのが特徴だ。党が窮地に陥るほど現実味を帯びる「石破カード」。当面は推薦人20人の確保が課題になる。
(東京支社・原田准吏) 
 

 初めて総裁選に挑んだ08年は麻生太郎氏(現副総裁)に敗れ、12、18、20年も国会議員票を伸ばせず敗北した石破氏。14日の岸田首相の不出馬を受けて「できるだけ同じ志を持つ方にご賛同いただきたい」と、立候補に意欲を示した。

 石破氏の強みは国民、党員の支持だ。共同通信社が7月20、21の両日に実施した世論調査で、次の総裁にふさわしい人を尋ねる問いに全体は28・4%でトップに立ち、2位の小泉進次郎元環境相の12・7%を大きく引き離した。自民支持層に限っても29・1%で1位となった。

 状況は下野していた12年と似通う。当時の石破氏への期待は全体25・5%、自民支持層31・4%でともに1位。党員・党友による地方票と国会議員を合わせた1回目の投票は地方票で圧倒した。国会議員のみの決選投票は安倍晋三元首相に19票差で敗れたが、過去4回で最も総裁に近づいた選挙だった。

 低い自民支持率共通

 もう一つ共通するのは自民党支持率の低さだ。民主党政権時の12年は19・3%で、今回は派閥政治資金パーティー裏金事件を受けて33・1%にとどまり、40%を超えていた安倍、菅各政権時代より低い。

 時に政権に苦言を呈し、党内には「石破アレルギーは強い」との声が聞かれる一方、「国民と意識が近い石破氏がいるのは党の強さでもある。本当に党が追い込まれた時に『石破カード』を使う可能性はある」との見方もある。

 党への逆風と石破氏への期待は連動する。裏金事件発覚前で自民支持率が35・8%だった23年8月調査で石破氏への期待は全体18・5%、自民支持層に限ると17・0%で岸田首相の19・1%に及ばなかった。裏金事件発覚後の同12月調査は自民支持率が26・0%に下がる一方、石破氏への期待は全体25・7%に上昇し、自民支持層は23・5%で首位に躍り出た。

 安倍氏と一騎打ちとなった18年は石破氏への期待は全体26・7%で安倍氏を下回り、自民支持層は20ポイント以上の差をつけられ、299票の大差で敗れた苦い経験もある。党員の期待をつなぎ留められることが勝利の絶対条件になる。

 「選挙の顔」を期待

 国会議員の支持が課題なのは変わらない。20年は26票(得票率6・6%)にとどまり、石破派19人と推薦人5人以外は2票しか上積みできなかった。21年は推薦人20人を確保できずに断念に追い込まれた。

 石破派は所属議員の減少を理由に21年12月に掛け持ち可能なグループに衣替え。今年に入って計6回開いた石破グループ主催の勉強会の参加者は最大17人、今月8日も8人にとどまった。石破氏自身も「(推薦人を)そろえるのは非常に難しい作業」と認め、顔触れも問われることになる。

 現職が立候補しない総裁選は、12年は5人、21年は4人が名乗りを上げ、混戦になった。21年に協力関係を築いた河野太郎デジタル相、小泉元環境相らが立候補し、刷新感を打ち出せば石破氏の物言う姿勢、改革色が薄まる可能性がある。

 石破氏に近い参院議員の一人は、早期の衆院解散・総選挙が予想され、来夏に参院選が控える中、選挙基盤が弱い中堅・若手を中心に「選挙の顔」を期待して石破氏支持に回る可能性に触れた上でこう指摘した。

 「地方票1位で決選投票に残ることができれば勝機は出てくる」

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▼自民党総裁選
 選挙の日程や方法は20日に決まる予定で、9月5日告示-同月20日投開票などが浮上している。2021年の前回は国会議員票382票と地方票(党員・党友票)382票の合計で争った。地方票は各都道府県連が集計し、党本部が全国分を合算した上、ドント方式で候補に割り振った。1回目の投票で過半数を獲得した候補がおらず、決選投票(国会議員票382票、都道府県票47票)を実施した。今回も同様の方法になるとみられる。総裁任期は3年。