私の目がその姿を捉えるずっと前から、海の音が聞こえていた。ある日私は大田市の馬路駅に降り立ち、坂道を下っていた。海の眺めは民家に遮られていたが、波がリズミカルに浜へ打ち付ける音は次第に大きくなっていった。琴ケ浜に来たのは、うわさに聞く「鳴き砂」を体験するため、そして願わくは潮風で涼むためだった。せっかくなので私は直接浜辺へは向かわず、まずはこの辺りの歴史に触れるため西への道をたどった。
海岸沿いに少し歩くと、鞆(とも)ケ浦がある。この狭い入り江は、16世紀前半に石見銀山から銀を搬出する港として使われていた。貴重な銀を積んだ船を停泊させるために、...