「オープンネーム」で登壇し、事業紹介する鳥取県内の経営者(右奥から2人目)=10日、鳥取市内
「オープンネーム」で登壇し、事業紹介する鳥取県内の経営者(右奥から2人目)=10日、鳥取市内

 初めて野球グラブを買ったのは、松江市内の商店街にあった夫婦経営の小さな運動具店だった。高校の硬式グラブも買ったその店はもうない。企業、個人事業主の「廃業」のニュースに触れるたび、少なからず感傷を覚えるのは、そんな思い出の店がいくつも頭に浮かぶからか。

 廃業の理由として「後継者不在」が課題となって久しい。親族、従業員以外の選択肢となる第三者承継のハードルは、「身売り」という負のイメージを強く感じた10年前と比べると下がったのかもしれないが、抵抗感は今なおあるだろう。

 そんな杞憂(きゆう)を飛び越え、鳥取県内の4事業者が実名(オープンネーム)で後継者を募る、日本政策金融公庫主催のオンラインイベントが先日、鳥取市内で開かれた。

 経営者にすれば、勇気のいる一歩だろう。この手のマッチングは社名も伏せて進められるのが一般的だが、情報開示に伴う風評や取引のリスクも織り込み、「生の声」を発信。県西部でペットと宿泊できる全室和室の宿を営む60代の夫婦は、年に何度も訪れる常連客の思いも込め、経営で大事にしてきたものを「つながり」と語った。

 全国の法人、個人を対象に帝国データバンクが行う後継者不在率調査で、2023年の都道府県順位は鳥取が1位(71・5%)、島根は3位(69・2%)。帳簿では分からない価値の共有は、次の一歩につながる。「思い」の承継の現場で、そう願った。(吉)