合併を挟んで出雲市長を通算4期14年務めた西尾理弘さんが83歳で亡くなった。行政手法は「前進、前進、また前進」の決まり文句そのもの。自身の干支(えと)の「巳(み)」にちなみ、こうも言った。「這(は)ってでも進んでいくんですよ」。
東京外大出身の元文部官僚。頭の中にはいつも「正解」があったのだと思う。正しいと信じた「結論」(政策実現)へ向け説明や調整もそこそこに突き進んだ。「中立」を掲げる教育委員会への出席や社会教育部門を切り離し市長部局に移管する制度改革は「独走」の危うさをはらんだ。先頭で旗を振った「出雲阿国座」建設は選挙の敗北で「夢」に終わった。それらの実現の先に描いた未来も、熱っぽい語りで聞かせてほしかった。
ハイライトは合併前、2002年サッカー日韓ワールドカップで誘致したアイルランド代表の事前キャンプだろう。最後まで何が起こるか分からない、引く手あまたの誘致合戦。チームの静養先のサイパンにまで迎えに出かけ、喜色満面、出雲空港に共に降り立った。
公費負担に批判もあったが、キャンプの熱気を引き継ぐ、息の長い市民交流が「反論」に説得力を持たせる。当時の子どもたちの中には、英語を学び、アイルランド留学を叶(かな)え、行く道を切り開いたケースもある。
耳に残る「前進、前進」のフレーズ。功績をたたえる言葉には、いたずらっぽく笑いつつ、当然という顔を見せるだろう。(吉)