先月、借りている畑の一角に小さな薄紅色の花が咲いているのに気付いた。座布団2枚分ほどの広さに群生。かわいらしさに少し摘み、玄関や部屋に飾っている。花の名前を調べるとミゾソバ。あぜや溝の近くに育つタデ科の植物だ。この頃ぐんと寒くなり、そろそろ見納めだろう。
若い頃はそこまで関心がなかった草花に、年を取るにつれ癒やされるようになった。人間の汚いところを多く見たため汚れのない様に引かれ、自分が花盛りを過ぎたからこそ心に染みるのだという。テレビのバラエティー番組での分析。明確な根拠はないだろうが納得だ。
ミゾソバのような野花を見て、思い出す人がいる。以前取材した島根県邑南町の男性。シイタケ栽培に使っていた山に10年ぶりに足を踏み入れると、ほだ木に咲いていたのはエビネ。ひっそりと生き抜く姿に突き動かされた。その山を「山野草の楽園」として整備し、30年前に一般開放を始めた。
それまで色鮮やかで大ぶりな花を美しいと感じ、趣味の盆栽は、妻が「見ていると自分の身が痛い」とこぼすほど針金を巻いて仕上げていた。その中で「自然に咲くのが一番」と気付き、山野草を守り続けた。
取材時に「楽園の名は山野草にとっての、という意味です」と教えてくれた。男性は亡くなり、楽園は有志が継いでいる。草花との穏やかな時間を共有できる尊さを、男性の言葉と共に時折かみしめる。(衣)