インタビューに答える養老孟司さん=2022年11月、神奈川県箱根町
インタビューに答える養老孟司さん=2022年11月、神奈川県箱根町

  解剖学者の養老孟司さんといえば「壁シリーズ」。平成最大のベストセラー『バカの壁』をはじめ、『死の壁』『超バカの壁』と続き、最新刊の『人生の壁』で累計700万部に到達した。「努力と成果が結びつくと思い込まないほうがいい」「他人の顔色をうかがうのは不幸になる第一歩」。洒脱(しゃだつ)な「養老節」を織り交ぜ、壁を克服するヒントを与えてくれる。

  こちらの壁シリーズもおなじみになってきた。103万円や106万円、130万円…。税や社会保険料の負担を巡る壁の見直しに向けた議論が進む中で、「50万円の壁」も注目されている。働いて一定以上の収入がある高齢者の厚生年金を減らす在職老齢年金である。

  賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると、超過分の半額が年金からカットされる。能力があり、高い給与で働く人ほど罰を科されているようにも感じる。シニアの就労意欲を損ねているとして、国は引き上げる方向で調整に入った。

 年金財政を圧迫し、将来世代の受給水準低下を招くとの批判があるが、働けるシニアが最大限働けば所得税が増え消費も回る。長短所があるにせよ、年金財政の枠にとらわれず廃止するのは手だ。

 養老さんの言葉を借りるならば「根拠を求め過ぎると前に進まない。まずはやってみる」だろう。制度はシンプルに越したことはない。養老さんは「壁は全て、自分が作っている」とも言っている。(玉)