富裕層向けの宇宙旅行が本格化しそうだ。今月、米国のベンチャー企業2社がそれぞれ独自に開発した宇宙船を「宇宙空間の始まり」とされる高度に到達させる有人飛行に、相次いで成功した。

 ヴァージンギャラクティックの飛行機型宇宙船「スペースシップ2」とブルーオリジンのカプセル型宇宙船「ニューシェパード」で高度100キロ前後に達し放物線のような軌道で地上に戻った。

 どちらも数分間の無重力体験ができる。「車いすの天才科学者」故スティーブン・ホーキング博士は飛行機で無重力を体験し、スペースシップ2での旅行に招待されると即座に承諾していたという。それなりに素晴らしい体験なのだろう。

 ただし費用は高い。スペースシップ2は1人25万ドル(約2800万円)。ニューシェパードは競売で1人分に2800万ドル(約31億円)の値が付いた。来年1月には米国の別のベンチャー企業が4人を国際宇宙ステーションに送る予定で、送迎だけで1人5500万ドル(約61億円)かかる。

 他にも月を回る旅行などが計画されており、米国の調査会社は宇宙旅行市場が2030年までに累計48億ドル(約5400億円)になると予想する。

 宇宙旅行実現をリードしたのは民間の力だ。子どもの頃、アポロ11号の月面着陸に感銘を受けたピーター・ディアマンディス氏が1996年に創設した懸賞金「エックス・プライズ」がきっかけだった。そのエピソードに米国の持つ活力を感じる。

 同氏は「3人乗り宇宙船で高度100キロ以上の飛行に2週間以内で2度成功」の課題達成に1千万ドル(約11億円)を出すと発表。資金集めで接触したのが、ともに著名な起業家で後にヴァージンギャラクティックを創業するリチャード・ブランソン氏と宇宙ベンチャー「スペースX」を創業するイーロン・マスク氏だった。両氏は宇宙旅行の夢を追い始める。

 マイクロソフト共同創業者ポール・アレン氏の出資を受けたベンチャー企業が賞金を獲得。その技術を基にしたスペースシップ2を披露する際、ブランソン氏は「エックス・プライズがなければ今のわれわれはなかった」と語った。

 日本でも宇宙旅行を目指す企業はあるものの実現はまだ先だ。政府は宇宙航空研究開発機構(JAXA)を通じ開発を支援する構えだが、深入りすると、官需頼みから抜け出せない人工衛星打ち上げビジネスの二の舞いになるのではと心配だ。

 日本の産業界はリスクを取って挑む気風を失っていないか。90年代後半以降、大手企業の多くは時間のかかる基礎研究から撤退。一方、2019年度の内部留保は475兆円と過去最高。余力はあるのに、政府は産業支援の大型研究プロジェクトに気前よく金を出す。

 だが政府主導の研究プロジェクトは大した成果が出ないのが普通だ。日本企業でも世界的な存在感を示しているところは10年以上かかっても研究課題に挑み続けている。

 政府のベンチャー企業支援策も振るわない。若い研究者らに高額の賞金を出して起業を支援するという米国の制度をまねた事業を約20年前に始めたものの、単なる中小企業支援にとどまり、見直しを迫られている。

 宇宙旅行に限らず、夢に挑む企業の出現に期待したい。