今の政権が、新型コロナウイルスの感染対策や東京五輪における観客問題と同じ過ちを犯すのではと危惧している。日本の財政健全化のことだ。

 内閣府が財政の中長期試算を公表し、事態の深刻さが浮き彫りになった。この問題に際して場当たりで後手に回る対応や、根拠に乏しい楽観は許されない。政府は健全化へ向けた具体策と道筋を国民に示すべきだ。

 政府は健全化について国と地方を合わせた基礎的財政収支を2025年度に黒字化する目標を掲げる。基礎的収支は政策経費を主に税収でどの程度賄えているかを示す指標で、赤字は債務が増え続けることを意味する。

 試算によると、実質2%程度と高めの成長が実現した場合で、25年度の基礎的収支は2兆9千億円の赤字になった。コロナ禍でも20年度の税収が堅調だった点を反映した結果、1月の前回試算より赤字額が半分以下になったという。

 黒字になるのは27年度の見通しで、菅義偉首相は「成長を実現し歳出改革を続けることで25年度に黒字化を実現する姿が示された」と述べ、前倒しが可能と強調した。しかし、この言葉を額面通りに受け止めるわけにはいかない。

 同時に示された1%程度と日本の実力に近い成長率を前提とした試算では、25年度の赤字は7兆9千億円に上り、試算最終年の30年度でも黒字化は達成できないとの結果になった。

 政府が健全化を議論する際の前提は、楽観を排し現実に即したものとすべきだ。その下で練られた具体策であってこそ初めて説得力を持つ。

 わが国の財政状態は主要国中最悪であり、大地震など将来のリスクに備えるためにも今から健全化に努めねばならない。それには歳出と歳入の両面で厳しい見直しが必要だ。ところが菅首相の言葉と裏腹に、このほど閣議了解した22年度予算の概算要求基準は歳出改革にほど遠い内容となった。

 総額に上限を設けないだけでなく、メリハリをつけるとして、経費を一部削減すれば首相の看板政策のデジタル化などにその3倍を要求できる仕組みとしたからだ。しかもコロナ対策には金額を定めない「事項要求」を認めた。これでは予算の膨張が必至である。

 歳出抑制には補正予算への歯止めもいる。補正による機動的な財政出動がコロナ不況などでは有効だ。しかし「景気対策」と称した補正が毎年度のように組まれ、効果の乏しい歳出に充てられてきたのも事実だろう。

 足元では、多額のコロナ予算の使い残しがあるのに、与党から秋の衆院選を意識して30兆円規模の経済対策を求める声が出ている。国民生活に本当に必要か、よく考えてもらいたい。

 歳入面では、税収の確保と格差是正を両立させる税制改革を求めたい。国際間で進む法人課税の見直しはその一つだが、米国などは加えて富裕層への増税や株式売却益の課税強化に動いている。日本も早急に税の不公平是正に着手すべきだ。

 政府は今年の骨太方針で財政健全化について、21年度中に検証した上で「目標年度を再確認する」と明記し、目標の先送りに含みを持たせた。

 歳出抑制は政治的に不人気で、今のままでは達成困難な事情が背景にあろう。だが難事に向き合わない安易な先送りは許されない。