日銀は気候変動対策への民間金融機関の投融資を後押しするため、新たな資金供給制度の導入を決め、概要を発表した。地球温暖化への取り組みは時代の要請であり日銀の対応は理解できる。だが新制度は「物価の安定」など日銀に元来課せられた役割の拡大といえ、運用次第では金融政策の独立性や中立性を損ねる可能性がある。慎重な議論と制度の自制的な運用を求めたい。

 新制度による資金供給は年内に開始し、2030年度までを予定している。脱炭素に取り組む企業向け資金として金融機関に金利ゼロで貸し付けるのが特徴だ。期間は原則1年だが無制限の借り換えを可能とし、実質的に長期の資金手当てができるようにした。温暖化対策には時間を要するためだ。

 併せて金融機関が日銀に預けているお金でマイナス金利の対象になる分が、新制度の借り入れに応じて減るなどの優遇策を講じた。制度の利用を促す狙いという。

 温暖化対策が急がれる中で、再生可能エネルギー事業などへ投じる「グリーン資金」の需要は急増している。

 環境省によると、国内の資金調達は債券発行によるものが中心で、20年は初めて1兆円を突破、この3年間で4倍超に増えた。一方で金融機関による融資は約800億円にとどまった。日銀の新制度をきっかけに金融機関のさらなる工夫や取り組みの強化が期待できるだろう。

 実際、大手銀行は気候変動関連の投融資を拡大する方針だ。三菱UFJフィナンシャル・グループは30年度までに35兆円、三井住友フィナンシャルグループは29年度までに20兆円へ伸ばす目標をそれぞれ掲げている。

 日銀と同様に、世界の中央銀行は気候変動問題への対応を急いでいる。

 先行したのは英国でイングランド銀行は3月、金融政策の使命に「温室効果ガス排出量の実質ゼロへの移行」を追加。欧州中央銀行(ECB)も金融政策の一環として同問題に積極的に関わる姿勢を明確にしている。これらの動きが日銀の背中を押したのは明らかだ。

 日銀は気候変動が「中長期的に経済、物価、金融情勢に極めて大きな影響を及ぼし得る」ことを今回の対応の理由に挙げた。しかし、それが物価や金融の安定という新日銀法の想定した中央銀行本来の役割と異なる点には留意しておきたい。

 金融政策は政府からの「独立性」と特定分野や産業に偏らない「中立性」が大切だが、やり方次第で新制度はこれらを危うくしかねないからだ。

 菅義偉首相が50年までの脱炭素を表明し、政府は2兆円基金などで企業の取り組みを後押ししている。日銀の新制度はその動きと足並みをそろえたと言えるが、本来なら政府が財政投融資や税制で工夫し政策対応すべき点の肩代わりになっていないだろうか。国債の大量購入に加えて、政府の「日銀頼み」が一層進まないか心配だ。

 一方、政策の中立性を保つため日銀は、企業の選別となりかねない投融資の是非には立ち入らず、金融機関の判断に委ねる方針という。苦肉の策といえるが、効果の疑わしい資金の利用を防ぐため金融機関や投融資先企業に適切な情報開示を求めていく必要があろう。

 役割拡大には検証と説明の責任が伴う点を日銀は忘れてはならない。