東京五輪は終盤戦を迎え、新型コロナウイルス対策の規則集「プレーブック」で禁止されている選手村(東京・晴海)からの外出や、村内での大人数による飲酒など違反の発覚が相次ぐ。主催者側は大会イメージの悪化や、違反行為が感染拡大の端緒になることを警戒するが、対応には限界も見える。五輪関連の陽性者数は低い水準で推移するものの、対策が徹底できているのか疑問符がつきかねない。
「ルールをしっかり順守していただいている大多数の大会関係者の評判にも影響を及ぼす。大変残念だ」。大会組織委員会の武藤敏郎事務総長は1日の中間総括記者会見で、違反の続出に懸念を示した。
7月31日までに選手を含む大会関係者の処分に至ったケースは計28人。最も重い大会参加資格証のはく奪は、選手村を抜け出して東京タワーなど都内の観光地を訪れたとされるジョージアの柔道銀メダリストの2選手など計6人。効力一時停止が8人、厳重注意が10人、誓約書提出が4人いた。
7月31日未明には選手村内で複数の国の選手らが大人数で集まって大声で話しながら飲酒し、警察が駆けつける事態も発生。組織委は3日、当該選手らの所属する7~8の国内オリンピック委員会(NOC)に注意したと公表した。
大会のコロナ対策のよりどころとなる規則集では、意図的な検査の拒否、故意のマスクの不着用、レストランやバー、観光地などの訪問といった違反には、懲戒措置が取られる可能性があると規定。具体的な処分例として「警告」「参加資格証の撤回」「大会からの除外」「金銭制裁」などが挙げられている。
ただ、それぞれの違反行為が、どの処分に該当するかの記載はなく、基準は不透明。組織委は「全ての事案はケース・バイ・ケース」と歯切れが悪く、違反事例も大半は詳細を公表していない。
大会関係者は「例えば、大国の金メダル候補に競技前に違反行為が見つかったからといって、出場させないといった措置が取れるわけがない」と厳格な適用はそもそも困難と指摘する。別の組織委関係者も「一発で厳しい処分を下すのはリスクが高い。スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴される可能性もある」とし、できるだけ「穏便に」の意図をにじませた。
7月1日以降、大会関連では累計299人の陽性者が出ているが、懸念された選手村など五輪関連施設で甚大なクラスター(感染者集団)は確認されていない。
選手や大会関係者は2日までに約1万人が帰国の途に就き、組織委によると既に「入国者より帰国者が増えている段階」に入った。「大会運営に大きな影響を及ぼす課題はない」と、ヤマ場を越えた安堵(あんど)を漂わせる関係者もいる。
選手村は徹底した検査と行動管理で外部との接触を断つ「バブル方式」が建前。ただ、実際にはあちこちにほころびを露呈する。ジョージア選手の外出は「29日に一部で報じられたことを受けてから調査に動いた」(関係者)もので、組織委は当初、違反行為があったこと自体を把握しておらず、対応は後手に回った。関係者は「『大使館に行く』といってNOCの専用車両で外出してしまえば、実際は他の場所に行っても把握しようがない」と現状を明かした。