吉田松陰の像=東京都世田谷区の松陰神社
吉田松陰の像=東京都世田谷区の松陰神社

 <自転車の練習。「できなくても泣くな!」と言ってたママが、できるようになったら泣いた。>。子育てや家族と暮らす楽しさを短文で表現する島根県の本年度「ことのは大賞」の入賞作の一つだ。

 作ったのは小学2年生。怒ったり泣いたりと、ころころ変わる母親の感情は子どもにとって理解不能だろう。ただ、親にとってわが子の成長は、どんなに小さなことでもうれしいもの。感涙する母親の姿が目に浮かぶ。

 <初給料 今日はおごりと メニュー見せるけど 涙がにじみ 料理決まらず>。こちらは親の立場からの作品。社会人になったわが子の成長がうれしくて、涙でメニュー表が読めない親の顔。想像するだけでぐっとくる。

 幕末の思想家吉田松陰は江戸で処刑される直前、故郷の両親に宛てた手紙でこんな短歌を詠んだという。<親思ふ心にまさる親心 けふの音づれ何ときくらん>。「自分が親を思う以上に親が自分のことを思う気持ちは強いものだ。今日のこの知らせをどのように受け止めているのだろうか」という意味。時代は移っても、親心の深さは変わるまい。

 今回、全国から寄せられたのは3810点。中には小中高校生の3兄弟に両親を合わせた5人が「家族だんらんの一環」で取り組んだ例もあった。自転車に乗れるようになったわが子に涙する母親も胸を打つが、互いの思い出を振り返って短文を考える家族の姿も温かい。(健)