「元の生活が戻るなら『無罪なんておかしい』と騒ぐだろうが…。どんな裁判結果でも変わらない」。強制起訴された東京電力の旧経営陣の刑事責任は認められないとの最高裁の判断で決着した福島第1原発事故の刑事裁判。7日の本紙で掲載した、今も自宅が帰還困難区域に含まれ、福島県いわき市で避難生活を送る女性(69)のコメントからは諦めと同時にやり場のない怒りが伝わってきた。
焦点になったのが事故の予見可能性だった。東電は2008年に政府の地震予測「長期評価」に基づき、最大15・7メートルの大津波が到来する可能性があるとの試算を得ていた。裁判では、津波対策を経済的な理由から怠ったとも受け取れる担当者の供述調書の存在も明らかになった。
それでも最高裁は「事故の予見可能性はなかった」と個人の刑事責任は否定した。とはいえ、東電が責任を免れることはあり得ない。
「私たちが思い込んでいた安全は、私たち東京電力のおごりと過信にすぎなかった」-。4年前、福島第1原発の廃炉作業を視察した際に足を運んだ、東電の廃炉資料館(福島県富岡町)で流れていたナレーションだ。反省と教訓を忘れてはなるまい。
未曽有の原子力災害をもたらした東日本大震災の発生から、きょうで14年。今も「元の生活が戻らない」避難者にとっては希望の見えない重い年月だろう。やり場のない怒りをどうにかできないものか。(健)