精巧な仏像彫刻を独学で作り続ける男性がいる。島根県邑南町布施の農業、竹崎亘さん(84)は定年退職後の70歳で制作を始め、穏やかで深みある表情が特徴の約60体を完成させた。100歳までに100体作って並べることを目標に掲げ、創作意欲が衰える気配はない。
不動明王、釈迦(しゃか)如来、弥勒(みろく)菩薩(ぼさつ)-。大きさ30センチほどの仏像は神仏本体はもちろん、手にする剣や巻物、背後に現れる光(こう)背(はい)まで緻密に彫られている。農作業の傍ら制作するのは主に雨の日と冬季で、1体作るのに約3カ月かかるという。


同町出身で広島県呉市の製造工場に長年勤めた。退職後に生家に戻って裏山のヒノキを伐採した際「何かに使えないか」と思いを巡らし、彫刻を思い付いた。書店にあった仏像彫刻の本を読んで適した用材や用具をそろえ、「七十の手習い」で挑戦を始めた。
「しょせんは趣味。自分だけの仏像が彫れれば良い」との考えで本を唯一の師に、独学で技術を習得した。本にある図面をカーボン紙で、四角い木片の六面に書き写して大まかな全体像を彫り、あとはひたすら参考写真を見ながら服のしわや顔の凹凸など細部を彫り進めるという流れだ。
最初は「こけしに目鼻と手足が付いた程度」だったという作品は年を重ねるにつれて完成度が高まり、同じ仏でも彫るたびに表情が違う彫刻の奥深さにのめり込んだ。使う彫刻刀やのみは約50種類。時には幅がつまようじよりも細いものを扱う。図面のない細部を立体的に彫る感覚は、試行する中で体に染み込ませた。
友人から上がる譲ってほしいとの声には「目標の100体が遠ざかるから」と断っており、展示は地元公民館の作品展に出品する程度にとどめている。順調にいけば目標まであと10年。「100歳までに達成するためにも健康には気を付けたい」と笑う。
(吉野仁士)