国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が最新の報告書を発表し、人間が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地がないと断言した。産業革命前からの平均気温の上昇幅が2021~40年の間に1・5度を超える可能性が非常に高く、今のペースで温室効果ガスの排出が続けば、異常気象などの頻発は避けられないという。
深刻化する気候危機に関する科学者のメッセージはこれまで以上に明確だ。破局的な将来を避けるため、社会と経済の根本改革が急務である。
今回の報告書の大きな特徴は、国内外で多発するようになった豪雨や干ばつ、熱波といった「極端な気象現象」への理解が深まった点だ。報告書は大雨や熱波、干ばつ、海の異常高温である「海洋熱波」などの極端な現象が近年、頻発するようになったことに、人為的な温暖化が影響している可能性が高いと指摘。今後も温暖化が進めば、それらの頻度も増え、規模も増大すると予測した。
これらの現象は、産業革命以来の気温上昇を1・5度に抑えたとしても今より激しくなり、2度の上昇では、さらに巨大になる。温室効果ガスの排出量を1トンでも少なくし、気温上昇を少しでも抑えることに大きな意味がある。
報告書が描く未来は衝撃的で陰鬱(いんうつ)だ。だが忘れてはいけないことは、今すぐに大幅な温室効果ガスの排出削減を世界中で進めれば、気温上昇を2度より十分低くし、1・5度に抑えられる可能性はまだ残されているというのも報告書の結論の一つだ、という事実だ。
IPCCは気温上昇を1・5度に抑えるために人類に残された二酸化炭素の排出許容量は約4千億トンだと推定している。今のペースで排出が続けば、人類は今後10年ほどのうちにこれを使い切ってしまう。この事実は果てしない成長を求めるのではなく、限られた地球の許容力の範囲内で、全ての経済活動を営む社会への大転換が必要なことを意味する。
古い経済システムにしがみつく既得権益を排し、過去にない規模での削減努力に取り組むことが全ての政策決定者の義務だ。排出削減にはコストがかかる。だが、それは行動を取らなかった時の被害額よりも少ない。
多くの国で導入されている実効ある炭素税の導入、先進各国が決めている石炭火力発電の全廃など、日本が今後、参考にすべき課題も明確だ。
IPCCが慎重な表現ながら人間が地球の気候に影響を与えている可能性に初めて言及したのは1995年の第2次評価報告書だ。気候変動枠組み条約第1回締約国会議が開かれた年でもある。
問題はずっと以前からわれわれの眼前にあり、科学者は警告を発し続けてきた。だが、政治や企業の意思決定にかかわる人々は、それに真剣に耳を傾けずにきた。温室効果ガスの排出は増え続け、多発する自然災害に代表される気候危機が、自らの将来を危うくするまでになった。グテレス国連事務総長は今回の報告書を「人類に対する厳戒警報だ」と述べた。
大幅な排出削減を早急に進めない限り、人類はかつてない危機に直面する。残された時間は少ない。今回の報告書は科学者からの最後の警告だと受け止めるべきだ。過去の過ちを繰り返すことは許されない。