出口の見えない新型コロナウイルスの「制御不能の感染爆発」は、かつてない国家の危機だ。入院できない自宅療養者の症状が急激に悪化し、死亡する、救急搬送しても受け入れ先が見つからないなどのケースが相次ぎ、首都圏では事実上の医療崩壊に直面する。にもかかわらず、政治、とりわけ国権の最高機関の国会が機能を果たしているとは言い難い。
野党の臨時国会召集要求に対し、与党側は拒み、散発的な閉会中審査に応じるだけ。トップリーダーによるリスクコミュニケーションの欠落を再三指摘されても、菅義偉首相が審議に登場することはない。
数少ない論戦も、政府対応の不手際を野党が追及するという紋切り型に終始している。コロナ対応を巡る政府と与野党の協議の場として昨年、政府・与野党連絡協議会を設置したが、この肝心な場面でも稼働しないままだ。
こうした体たらくは、政治日程とは無縁ではない。国会召集を突っぱねるのは、衆院議員の残り任期が2カ月となり、選挙を目前に控え、菅首相が批判される場面をできるだけつくりたくないとの本音が垣間見え、野党側も選挙を意識した政権批判が目立つ。
与野党の対峙(たいじ)ばかりを見せられても国民はしらけ、不安が募る一方ではないか。いまは与野党が立場を超えて危機に立ち向かう姿を示すときだ。
事態は深刻化している。全国の自宅療養者は、厚生労働省の11日時点の集計で約7万4千人。その後の感染者数を見れば、一段と増加しているのは明らか。「救急搬送困難事案」も、8月9~15日までの1週間は3361件に達し、これまで最多だった感染第3波の3317件(1月11~17日)を超え過去最多に。うち約半数がコロナ感染が疑われる事案だという。
国会の体たらくに業を煮やした東京都の2市4区の首長有志が12日、新型コロナウイルス対策のために「政治休戦」を求めた緊急提言を自民、立憲民主両党に送った。衆院の任期満了が迫り、与野党が対決姿勢を強めている現状に、政治的な立場やメンツを捨てて、思い切った施策を打ってほしいという、感染爆発を迎える最前線の悲痛な叫びにほかならない。
緊急事態宣言などの対象地域の拡大を決定した17日の記者会見で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、個人に感染リスクの高い行動を避けてもらうことを可能にする新たな法的な仕組みの構築や、現行法の活用を検討するよう求めた。まさに与野党が待ったなしに協議する課題だ。
コロナとの闘いが始まってから1年半余り。この間に野党もさまざまな提案をし、政権が〝後追い〟する形で採用した政策も少なくない。振り返れば10年前の東日本大震災直後、旧民主党政権の菅直人首相は、復旧・復興に与野党一体で取り組むために、野党の自民党総裁に入閣を要請した。1998年の金融国会では、自民党が野党案を丸のみし、金融再生法を成立させている。
危機を克服するには、政府や自治体、専門家、与党、野党などが英知を結集し、従来の発想を転換した対策を打ち出すことが欠かせない。その舞台をつくる責任は、ひとえに菅首相や与党だ。それが政治、リーダーの器量・度量だろう。国会から逃げてはならない。