新型コロナウイルスに感染した千葉県柏市の妊婦の入院先が見つからず、自宅で早産した赤ちゃんが死亡した。
若者世代で感染が急拡大した「第5波」では妊婦の感染も増えている。悲劇を繰り返さないため、政府、自治体は感染した妊婦にも即時対応できる周産期医療体制を早急に整備してほしい。そうでなければ「妊娠控え」が一層加速しかねない。
柏市の妊娠29週の30代女性は、中等症相当とされ自宅で単身療養中だった。県と市が入院受け入れ先の調整を始めたが、より症状の重い患者がいるなどの理由で少なくとも9カ所の医療機関に断られ、2日後に自宅で早産した男の赤ちゃんが死亡に至った。
出産後も医療機関はすぐに決まらず、女性と赤ちゃんが病院に着いた時は出産から45分以上経過。女性によれば生まれた時に息があった赤ちゃんは病院で死亡が確認された。医療機関がコロナ対応で逼迫(ひっぱく)しているとはいえ、差し迫った危機に対処できず、救えたかもしれない新たな生命を失った結果は重大だ。
この問題を受け千葉県は、中等症以上の妊産婦受け入れ体制強化を関係機関に要請。千葉大病院が一部病床を感染した妊産婦専用に切り替える方針を決めたが、こうした対応をなぜもっと早くできなかったのか。
柏市は第5波前から「コロナ感染症を診られて、産科ができる医療機関は非常に限られる」状況だったと言う。さらには、通常分娩(ぶんべん)なら対応できても、早産などのリスクがあるコロナ患者の受け入れ調整は「市単位では難しい」としている。
今回のようなケースに備えが不十分と分かっていながら改善を怠っていた行政の責任は重い。国、都道府県は前面に出て体制を再構築すべきだ。
東京都内では日本大板橋病院などがハイリスクの母子の分娩を扱っている。同病院は56床あるコロナ病床のうち4床を妊婦用に確保し感染者の出産にも対応するが、それでも感染者急増で窮迫状態が続いているという。千葉県のような体制不備の状況は、全国の多くの地域も同様であり、決して対岸の火事ではない。
医療体制整備に加え、保健所、かかりつけ医、救急隊などの間の情報共有の強化も直ちに実行しなければならない。
柏市の例では、女性の陽性を確認後、保健所が妊娠中と認識したのは3日後だった。早産当日、かかりつけ医は保健所に出産が近いことを伝えず通常のコロナ患者としての入院を要望していた。これらが、より調整に時間を食う結果につながった可能性は否定できない。
もとより妊婦のコロナ感染を減らすことが重要なのは言うまでもない。年齢が30歳以上や妊娠週数が25週以上の場合は、重症化リスクがより高くなるとされる。妊娠前はもちろん、妊娠が分かった後も可能な限りワクチン接種を受けてほしい。
コロナ流行中の出産への不安から「妊娠控え」が深刻になっている。全国の自治体が昨年1年間に受理した妊娠届は、前年比4・8%減の計約87万件で過去最少を更新した。1970年代の「第2次ベビーブーム」で年間200万人を超えた出生数は、今年は70万人台への落ち込みが濃厚だ。
将来の働き手、社会保障の支え手が想定以上に細れば国の土台が揺らぐ。感染しても安心して産める環境整備を急ぎたい。