アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが首都カブールを制圧した。選挙で選ばれたガニ大統領は国外に脱出、民主政権は瓦解(がかい)した。地域が不安定化し、再びアフガンが国際的テロ組織の温床になることを懸念せざるを得ない深刻な事態だ。

 米国、中国、ロシアの三大国は多くの問題で対立を深めているが、アフガン情勢の悪化を望まない点では一致しており、アフガンを安定させるため手を組むべきだ。近隣のインド、パキスタン、イラン、中央アジア諸国などの協力も重要だ。各国が国連を通じて和平の枠組みを立て直さなければならない。

 米国は2001年に米中枢同時テロを巡り、首謀した国際テロ組織アルカイダの指導者ビンラディン容疑者の引き渡しを、アフガンのタリバン政権に要求した。タリバンは拒み、米軍などの攻撃で政権が崩壊した。それ以降、米軍が駐留してきたが、バイデン米大統領は今年4月に「永遠に続く戦争を終わらせる」として撤退を表明した。

 タリバンは、武力で国を奪っても、国際社会が認めないことを理解すべきだ。これまでタリバンは「交渉で解決する」と繰り返してきた。7月に中東カタールで行われた政府との協議でも、恒久停戦に向けて協議を加速するとの共同声明を出した。だが、8月末の米軍完全撤退を前に、約束を踏みにじって全面的な攻勢に出た。

 タリバンは国際的な孤立は望まないとしており、「女性の権利を尊重する」「外国人とその関係者の安全を守る」と強調している。国際社会の懸念を抑える狙いだろうが、そうした約束は守られなければならない。

 一方、20年前に戦争を始めたのは米国だ。米軍撤退で力の空白が生まれ、今回の事態を招いたことは否定できない。米国は和平の再構築に大きな責任を負っている。

 アフガンは東西文明が交わる要衝に位置し、大国に翻弄(ほんろう)されてきた。旧ソ連軍が1979年に侵攻して以降、40年間以上も混乱続きだ。それに乗じて潜伏する過激派組織が、世界にテロの脅威を広げた。国際社会をテロから守るためにもアフガンの安定が必要だ。

 7月にはタリバンに攻撃された政府軍兵士や難民が隣国タジキスタンに逃れた。同国など中央アジアの旧ソ連諸国を勢力圏とみなすロシアは、過激派の流入を警戒し、ラブロフ外相は「われわれはアフガンの混乱を望んでいない」と強調した。

 中国の王毅国務委員兼外相も「絶対にアフガンを再びテロリストの集まる場所にしてはならない」と述べており、中ロ両国は今月に入ってテロ組織に対抗する合同軍事演習を行っている。

 三大国のほかにも、タリバンと緊密な関係を持つパキスタン、多数のアフガン難民を受け入れているイラン、中央アジアと民族的なつながりがあるトルコなど、和平への道に多くの国が関与することが必要だ。過去には国連を軸にして多数の国が連携し、カンボジア、モザンビークなどの内戦を、外交の力で終わらせた経験がある。そうした国際社会の外交努力が今こそ求められている。

 日本は2002年と12年にアフガン支援国会合を開催し、元兵士の職業訓練や警察の支援などアフガンの安定につながる援助を進めてきた。今後も人道危機を避けるため最大限の支援をすべきだ。