政府は新型コロナウイルスの緊急事態宣言を北関東から九州までの13都府県に拡大し、東京などに発令していた宣言は9月12日まで延長した。
菅義偉首相は東京に4度目の宣言を決めた際「東京を起点とした感染拡大を絶対に避ける」と発言。先の4府県追加時は「今回が最後となる覚悟」を表明したが、いずれも果たせなかった。インド由来のデルタ株の猛威に対する見通しが甘く、ワクチン頼みの対策を修正できずに人出の抑制、医療体制整備が後手に回った。首相は失策を認め、危機を早期に脱する対策に立て直すべきだ。
首相は7月上旬、東京への発令時に「デルタ株の急速な拡大が懸念される」としながらも、当初8月22日までだった期限について「ワクチン効果が明らかになり、病床の状況が改善すれば、前倒し解除も判断する」と表明。最近になって「予見をはるかに超える状況」と釈明している。デルタ株を甘く見て対処を誤ったと言うほかない。
「ワクチン接種が進み、コロナとの闘いにも区切りが見えてきた」とも言い「7月末までに1回でも接種した人が人口の4割に達すれば感染者の減少傾向が明確になる」との見通しを示した。8月半ばで約5割になったが現状はどうだろう。「根拠なき楽観論」との批判を首相は真摯(しんし)に聞かなければなるまい。
感染力が強いデルタ株は接種が遅れる50代以下でまん延している。ワクチン頼みでは眼前の危機脱出には間に合わない。首相は「10月初旬までに全国民の8割に2回打てる体制をつくった」とも言うが、ワクチンの必要量が確保できても8割を達成できるとは限らない。
接種が先行する欧米主要国でも、若者が接種を敬遠するため依然5~6割であり、8割を達成した国はいまだにない。米国は政府職員に接種を義務化し、新規接種者に約1万1千円の報奨金供与を呼び掛けている。接種率が頭打ちになることを見越した促進策を日本も早急に検討すべきだ。
政府の人出抑制策は相変わらず飲食店の営業規制が中心だった。首相は7月末には「避けられない都道府県の移動」の中に帰省を位置付け、自粛までは求めなかった。
東京五輪開催を諦めなかった政府が国民に帰省断念は言いづらかったのだろうか。しかし、地方への感染急拡大は帰省、旅行に起因する可能性が否定できない。首相がようやく帰省・旅行自粛を呼び掛けたのは8月の盆休み直前だ。遅きに失したと言わざるを得ない。
入院制限方針を表明するなど医療逼迫(ひっぱく)への対応を慌てて強化したのも8月からだ。最悪の事態を想定したコロナ病床の確保は昨年から取り組んできたはずなのに、いざという時に間に合わなかった政府の責任は重い。
東京都に助言する専門家は感染状況を「制御不能」、医療提供体制は「機能不全」とした上で「もはや自分の身は自分で守る段階だ」と言った。もう行政は当てにしない方がいいという。これは国や都の対策は「落第点」と認めたに等しい。
だが感染拡大を防げなかった総括を求められた首相は「世界でロックダウン(都市封鎖)しても守ることはできなかった」と言って拒んだ。首相が今やるべきは、命を守る医療、有効な人出抑制策を再構築することだ。それには失敗を認め教訓を得る姿勢が欠かせない。