人口最少県の首長が全国組織のトップに就く。全国知事会の飯泉嘉門会長(徳島県知事)の任期満了に伴う次期会長選で、平井伸治鳥取県知事の無投票選出が決まった。30日の全国会議で正式に選出される。流行第5波の出口が見えない新型コロナウイルスの対策に加え、地方の実情を広くアピールする役割にも期待が高まる。

 1期2年の会長選の候補者となるには5人以上の知事の推薦が必要で、平井氏以外に推薦の届け出はなかった。平井氏は、知事会の新型コロナウイルス対策本部の本部長代行を務めるなど、感染対策の中枢を担っていることから支持が集まった。

 飯泉氏より前の会長は埼玉、京都、福岡といった人口の多い都市部の首長が務めていた。総務省出身で、2007年に知事に初当選した平井氏は現在4期目と長くなったものの、人口が全国最少の〝弱小県〟の首長が会長を務めるのは異例だ。裏を返せば、それだけコロナ対策が最優先で、最重要課題という証左だろう。

 国内で新たに確認された感染者が初めて2万人を超え、最多を更新した13日、知事会が緊急声明を発表した。爆発的な感染拡大の状況を「個別の都道府県や自治体のコントロールが困難な局面に至った」とし、政府の対策を「功を奏しているとは言いがたい」と切り捨てた。

 いち早く危機感を強めていた知事会は1日、外出を厳しく制限する「ロックダウン(都市封鎖)」のような手法の検討を政府に求めていた。ところが、戦前の反省に立って個人の権利を最大限尊重する憲法もあり、菅義偉首相は「日本にはなじまない」と否定的だ。やむを得ないとはいえ、対応は従来の「お願いベース」にとどまり、有効な人出抑制策を示せていない。これでは知事会が政府を批判するのも当然だろう。

 だからといって、政府の関与なしでコロナ対策を進めることはできない。新会長に就任する平井氏が中心となって、実効性の高い提言をまとめ、粘り強く政府に求め続けるしかない。

 平井氏には率先して、地方の実情を中央に届ける役割も期待したい。

 コロナ禍の経済支援を巡っては、丸山達也島根県知事が今年2月、県内での東京五輪聖火リレーの中止検討を引き合いに、政府に飲食店支援を訴えた。結果的に望んだ成果は得られなかったものの、平井氏ら30人を超える知事が、感染拡大地域との経済支援の格差是正を求めて国に緊急要請した。

 コロナ対応で都市部と地方に格差があってはならないし、地方の意見がないがしろにされていいはずがない。

 平井氏は、3月に出版された自著『鳥取力|新型コロナに挑む小さな県の奮闘』の中で、現状を予想していたかのように、こう記していた。

 「政府に対して、(中略)足りないものは足りない、必要なものは必要だとズバリ言う」「現場の緊張の中にある我々知事は『結果が出てナンボ』なので、時に厳しいことも申し上げる」「まだまだ正念場が続く。国と地方が心ひとつに闘っていくことに、汗をかいていく」

 本来なら知事会には、喫緊の課題である人口減少対策に腰を据えて向き合ってほしいところだが、今はコロナ禍という有事への対応が最優先だ。国と総力を挙げてコロナ克服に取り組んでほしい。