ワンタッチ式のほろ蚊帳(資料)
ワンタッチ式のほろ蚊帳(資料)

 幼い頃に、折り畳み式の小さなほろ蚊帳の中で寝かされた記憶がある。写真を見て後付けした思い出かもしれない。ただ、守られた空間にいる心地よさを幼いながらも感じていたと思う。

 ほろ蚊帳の「ほろ」とは、南北朝時代に騎馬武者が背負った布製の大袋のようなもので、中に籠状の骨組みを入れて風をはらんだ形にした。流れ矢を防ぐと同時に、存在を示す標識だったという。この形に似ていることから命名されたそうだ。

 ほろ蚊帳は江戸時代には一般的だったようで、俳人小林一茶の句に<むら雨やほろ蚊帳の子に風とどく>とある。52歳で最初の結婚をした一茶は、授かった3男1女を幼い頃に相次いで亡くした。ほろ蚊帳の中に寝かせたわが子を思い、もしくは思い出して詠んだのだろう。

 レトロな一品だと思っていたが、今も需要があるようだ。床付きテント型の“進化形”もあり、ペットのいたずらや、エアコンの冷気が肌に直接当たるのを防ぐのに役立つという。

 もともと虫よけに使われたものだが、今はその虫も酷暑でバテているのだろうか。セミの鳴き声が少ないと感じている人が島根県内で多いそうだ。先日の本紙によれば、個体数が減ったわけではなく、梅雨前の気温が比較的低く、地中での成長が鈍って羽化のタイミングが遅れているのだという。いずれにしろ、ほろ蚊帳に入って、自然の風ですやすやと昼寝をした夏が恋しい。(衣)