記録的猛暑の中、消費者物価が過熱気味だ。日銀は「長年の物価が上がらないデフレこそ日本経済低迷の元凶」と、インフレ目標を定め物価上昇を誘導。目論見(もくろみ)通りインフレ時代が到来したが、暮らしが良くなった実感はない。
物価高には悪いパターンがある。モノやサービスの提供が目詰まりする「供給不足」による値上げだ。例えばバスやタクシー。運転手不足で「車があっても稼働できない」のに、経営が逼迫(ひっぱく)して運賃が上がる。旅館やホテル、飲食業などのサービス業も同じだ。
今年はこれに「気候変動」が拍車をかける。猛暑で食肉、野菜などの生産が減って価格が高騰。デフレ時代には安売りの目玉商品だった卵も「物価の優等生」の称号を返上し、漁獲量減少で魚の値段も上がった。
供給不足は単に経済統計の話ではなく、地方の日常生活に影を落としている。バスは減便、タクシーを呼んでも断られる。「卵が高い」と不満が言えるうちはまだ良い方で、経営難から地域スーパーの廃業が相次ぎ買い物難民が増えた。
「物価上昇を上回る賃金上昇で経済は活性化する」と経済学者は言うのだが、賃金上昇は大企業にとどまり、多くの消費者は将来への不安から財布のひもを締めている。いま必要なのはインフレ目標より、暮らしが良くなる「安心感」。それが乏しいのでどうしても、安いモノがあふれていた「デフレの時代」が懐かしくなる。(裕)













