<銀の滴降る降るまわりに金の滴降る降るまわりに>。この声に出して読みたくなる美しい言葉は、文字を持たないアイヌの人々が口承したカムイユカラ(神謡)の一節を日本語に訳したもの。梟(ふくろう)の神が口にした歌という。
アイヌの知里幸恵さん(1903~22年)が、祖母や叔母から聞き覚えた13編のカムイユカラを、ローマ字表記のアイヌ語と日本語訳とを併記し『アイヌ神謡集』に収めた。全てのものに霊魂を見いだし、自然と共に生きたアイヌの世界観に触れられる。
15歳で言語学者の金田一京助氏に才を見抜かれ、北海道から上京して編集に励んだ。同化政策や差別に苦しむ中、突き動かされる思いだっただろう。序文の「日頃互いに意を通ずる為(ため)に用いた多くの言語、言い古し、残し伝えた多くの美しい言葉、それらのものもみんな果敢(はか)なく、亡(ほろ)びゆく弱きものと共に消失(きえう)せてしまうのでしょうか」との言葉に、強い思いがにじむ。全身全霊を懸けて神謡集を完成させた直後、心臓病で急逝。9月18日が命日だった。
先日、知里さんをモデルにした映画『カムイのうた』を観賞した。壮絶な差別に折れそうな心を、叔母の「多くを奪われたけど、お前の中にあるユカラは誰にも奪えない」との言葉に奮起する姿が印象的だった。
民族の精神性は培ってきた文化に帰結し、生き抜く力になるのだろう。誰の中にもある、それぞれの文化に手を合わせたい。(衣)













