そば打ちを披露する出雲農林高校そば部の部員=7月、出雲市今市町の市役所
そば打ちを披露する出雲農林高校そば部の部員=7月、出雲市今市町の市役所

 うまいそばの条件は「挽(ひ)きたて」「打ちたて」「ゆでたて」の「三たて」といわれるが、そばの神髄はそれに「採れたて」を加えた「四たて」にあると、出雲地方の食文化が網羅されている『松江食べ物語』(荒木英之著)に書かれている。

 そばの食味と香りは時間との勝負。(1)秋に収穫され甘皮が淡緑色の間のもの(採れたて)を使い(2)製粉したて(挽きたて)を(3)打って(打ち立て)切り、(4)ゆで上げ(ゆでたて)を素早く水切りして出す-という塩梅(あんばい)だ。

 出雲地方のそばの伝統は奥深い。新そばは、旧暦10月の「お忌みさん」が口開け(解禁)。神在月の終わり、八百万(やおよろず)の神々を見送る神等去出(からさで)神事に合わせ、松江市の神魂神社や熊野大社、佐太神社、出雲市の出雲大社、須佐神社、万九千神社の周辺には「神等去出そば」の仮小屋が並んでいたそうだ。

 稲刈りを終えた田に釜揚げそばの湯気が立ち上り、そばをすする人でごった返した、と記されている。現代の屋外マルシェのような楽しいイベントだったのかもしれない。こうして出雲では「そばの味は冬春によし」と定まった。

 ところが最近、夏に「新そばあります」と掲げる店が登場した。聞くと「南半球からそばを輸入していて、あちらは春が収穫期」という。そばは庶民の食べ物。融通無碍(むげ)なところが良い。神話につながる「神等去出そば」の行事が現代にあれば、食文化として自慢できると思うのだが。(裕)