政府のデジタル化推進で司令塔となる「デジタル庁」が、9月1日に発足する。霞が関に加わる新たな役所が省庁間の縦割りを打破し、行政手続きの煩わしさを改善できるか、そしてデジタル化に伴い利用が広がる個人情報は保護されるのか、など多くの課題を背負った船出となる。これらの点を国民がしっかり監視する必要がある。
デジタル化の推進は菅義偉首相の目玉政策で、昨年9月の自民党総裁選の際に新庁創設を表明。個人情報保護制度の見直しを含む関連法が今年5月、国会で成立した。
デジタル庁は首相がトップを務め、統括する閣僚を置く。600人規模の職員のうち2000人程度は兼業を含めて民間から採用の予定で、事務方トップの「デジタル監」も民間人材を起用。政府に高い専門性を持つ職員が少なかった点がデジタル対応の遅れにつながったとの反省に立つためだが、採用者を通じて民間企業と近くなるだけに、入札などでは高い透明性が求められる。
新庁にまず期待されるのはデジタル化における省庁の縦割り解消と、それによる政府の効率化だ。2000年に決定したIT基本戦略をはじめ政府は約20年間にわたり、莫大(ばくだい)な予算を投じてIT化、デジタル化を進めてきたが、省庁ごとのシステムが横の連携や融通を欠く現状だからだ。
新型コロナウイルス対策で昨年実施された1人10万円の給付や雇用調整助成金におけるオンライン申請の混乱は、人材不足に加え、その短所が露呈した結果と言えよう。
デジタル庁はその点を踏まえて他省庁に対する「勧告権」を持ち、情報システム関連の予算は同庁に一括計上する仕組みとした。これら権限と予算をてこに、霞が関の縄張り行政を改められるかどうかが問われる。
国民の立場からは行政手続きの煩雑さが軽減され、利便性が高まることが重要だ。関連法の成立により希望者はマイナンバーと預貯金口座を事前に登録し、各種の公的給付を迅速に受け取れるようになる。将来的には、スマートフォンにマイナンバーカードの証明機能を搭載できるようにする予定だ。
良いことずくめに見えるがカードの普及率は依然36%程度にとどまり、高齢者ではスマホを持たない人も多い。行政手続きのオンライン化は大切だが、利用者が一部にとどまらぬよう工夫と改善に努めてもらいたい。
デジタル庁発足は地方自治体への影響も大きい。関連法により、自治体の情報システムは国が定める基準への統一が義務付けられたからだ。ばらばらだったシステムの標準化で情報の連携が容易になったり、自治体のコスト負担が軽くなったりする利点があるという。
だが自治体にとってシステムの共通仕様化は大事業だ。地方に乏しいIT人材の確保などで国の支援が欠かせない。
個人情報保護の枠組みは民間や行政機関などが一本化され、自治体には全国共通のルールを導入する大幅な見直しとなった。共通化を通じて、個人が識別できないように加工した情報の利用などをしやすくするためだ。
しかし条例で厳しい保護を課していた自治体では、共通ルール化で規制が後退するところも出てこよう。住民には見過ごせない問題であり目を光らせるべきだ。