自民党は、9月末に菅義偉総裁(首相)の任期が満了となるのに伴う総裁選を17日に告示し、29日に投開票する日程を決めた。全国100万人超の党員・党友の投票も実施する総裁選を行う。

 菅首相は既に再選を目指して立候補を表明。昨年の総裁選で敗れた岸田文雄前政調会長も出馬を表明した。下村博文政調会長や高市早苗前総務相も意欲を示しており、複数候補による本格的な選挙戦になる見通しだ。

 しかし、今回の総裁選には根本的な疑問がある。「100年に一度の危機」という新型コロナ感染症の対策に全力を注ぐべきときに、なぜ総裁選を行わなければならないかということだ。総裁任期の規定は政党の規則にすぎない。先送りも可能だ。

 総裁選で政治空白をつくってコロナ対策に手抜かりが生じることがあってはならない。政府は、発令中の緊急事態宣言を総裁選告示前の12日までとしている。総裁選を考慮して期限を決めたとすれば本末転倒だ。感染状況次第では、宣言の期限を延長し、コロナ対応を最優先すべきだ。

 政権政党の総裁は、首相としてコロナ対策の責任を負う極めて重い立場だ。総裁選では、菅政権のコロナ対策の是非が最大の争点になる。

 今の時期に総裁選を実施するのであれば、各候補が明確で具体的なコロナへの対応策を示し、危機に臨む抜本対策を競ってもらいたい。

 さらに、総裁選の勝者の政策は、秋に行われる衆院選での自民党の政権公約にもなる。コロナ収束後の政治、経済、社会の将来像を含めた政策を提示した活発な論戦を求めたい。

 菅政権のコロナ対策は、後手に回っている。確かに首相の指示で高齢者へのワクチン接種は進んだ。しかし第5波では中年層や若い世代に感染が広がり、医療態勢は深刻な状態に陥っている。

 繰り返し発令される緊急事態宣言で飲食店などは厳しい対応を強いられ続けている。共同通信社が8月中旬に実施した全国電話世論調査では、政権のコロナ対応を「評価する」は28・7%にとどまり、「評価しない」が67・8%に上った。

 こうした国民の評価にどう応えるのかが自民党は問われている。一般の国民に近い党員・党友の声をしっかりと受け止めるべきだ。ところが、党内では依然として派閥の動きが目立っている。

 二階俊博幹事長は二階派として菅氏の再選を支持すると明言。安倍晋三前首相や最大派閥・細田派の細田博之会長らも菅氏支持を表明している。彼らは今のコロナ対応をよしとするのだろうか。

 一方、内閣支持率は31・8%と、2012年に自民党が政権を奪還して以降、最低となっており、選挙基盤の弱い議員からは選挙に臨む「党の顔」を代えるべきだという声も出ている。

 だが、これも内向きの理由にすぎない。派閥の論理や自分の選挙優先の行動は国民の理解は得られまい。個々の議員が、あるべきコロナ対策を真剣に考える機会にするべきだ。

 さらにコロナ後の経済政策や、「自助」を優先する菅首相の対抗軸となる考え方をどう示すのか。コロナ禍で街頭演説などは難しいが、やるのであれば、広く国民に政見を訴える機会を工夫してもらいたい。