新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず10代以下の新規感染者も急増する中、全国の小中高校などは夏休み明けの新学期を迎え始めている。
政府は全国一斉や緊急事態宣言対象地域への休校要請は見送る。一方、学校で感染者が出た場合の休校や学級閉鎖の判断を、今よりも学校側に委ねることを検討している。言うまでもなく最優先すべきは、現状で打てるワクチンがない12歳未満を含む児童生徒を感染から守ることだ。政府、自治体が連携し、子どもと学校を支える態勢を早急に整える必要がある。
「第5波」が過去最大規模になったのは、従来株に比べ感染力が約2倍とされるインド由来のデルタ株にほぼ置き換わったのが原因だ。子どもの新規感染者が世界的に急増し、日本でも10代以下の累計陽性者数は8月半ばに約15万人と、この2カ月間でほぼ倍増した。
夏休み中は家庭内や、部活動、学習塾で感染する例が多かった。このまま新学期を迎えると、今度は学校で子どもから子どもへ、家庭では子どもから親へと感染が広がりかねない。それでも文部科学省が一斉休校に慎重なのは、安倍前政権が昨春に要請した全国一斉休校の反省からだろう。
安倍晋三前首相は昨年2月下旬、関係閣僚や自治体に事前の相談をせず、根拠もあいまいなまま全国の小中高校などに春休みまでの一斉休校を求めた。3学期途中で唐突に休校を迫られたため、教育現場や子どもの世話のため仕事を休む必要が生じた保護者からは困惑、反発の声が上がった。
学校は子どもに学びを保証するのみならず、先生や友達とつながることができる大事な「居場所」だ。同時に、共働きの親にとっては仕事を続ける上で、給食もある学校に子どもが通えることは生活の基盤だ。休校の〝穴〟を埋められる態勢をつくるのは容易ではなく、学校を閉めない判断はやむを得まい。
ただ自治体の対応は割れている。緊急事態宣言の対象地域に限っても、川崎市などが市立小中学校の8月末までの夏休み延長を決めた一方、大阪府や兵庫県は当面一斉休校を実施しない方針だ。地域ごとの判断は尊重されるべきだが、この状況が9月以降も続けば子どもの学習格差が広がりかねない。態勢はまだ不十分とされるが、オンライン授業なども活用して何とか感染対策と学習格差回避を両立させたい。
その中で文科省は、学校で感染者が出た場合に休校や学級閉鎖を判断するための新たな指針を策定する。現在は学校が保健所と協議して決めるが、緊急事態宣言の対象地域では保健所業務が逼迫(ひっぱく)するため、学校だけで判断できるようにするという。心配なのは、学校側による濃厚接触者の調査まで想定されており、過重負担にならないかだ。
新学期になると授業のほか部活動も本格化し、運動会、文化祭、修学旅行などの行事もある。このままでは学校は数多くの判断を迫られるだろう。政府や自治体に求められるのは権限委譲だけでなく、学校現場をしっかりサポートすることだ。
政府は、現在は高校などに配布している抗原検査の簡易キットを小中学校にも広げる。これらを有効活用し、教員らへ優先的にワクチン接種するなどして校内での感染防止策も当然強化しなければならない。国を挙げて子どもたちを守りたい。