北九州市の特定危険指定暴力団工藤会が関わったとされる一般市民襲撃4事件で、殺人や組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた会トップの総裁野村悟被告に福岡地裁は求刑通り、死刑の判決を言い渡した。併せて会ナンバー2の会長を無期懲役とした。公判で両被告は全事件で関与を否定し、無罪を主張していた。

 野村被告について、いずれの事件でも関与を直接示す証拠はないが、地裁判決は「工藤会の重要な決定は最終的に被告の意思により行われていた」とし、全事件で首謀者と認定。「罪責は誠に重大で、罪刑均衡、一般予防のいずれの見地からも、極刑の選択はやむを得ない」と結論付けた。

 とりわけ、市民を標的に犯行を繰り返し、社会を恐怖にさらした点を重くみた。指定暴力団トップに対する死刑判決は初めてとみられる。言い渡し後、野村被告は「生涯後悔するぞ」と声を荒らげた。弁護側は控訴して争うが、間接証拠を積み上げて現場で手を下すことのないトップと実行役との共謀を認定した判決の持つ意味は大きい。

 これまでより一歩踏み込んだ今回の判断がそのまま他の事件に当てはまるわけではないが、今後の暴力団捜査に少なからず追い風となろう。さらに、これに合わせ全国各地で警察や行政、企業、市民らが取り組む暴力団排除を加速させたい。

 判決などによると、工藤会傘下の組員らは1998年、元漁協組合長を射殺したほか、2012年から14年にかけて拳銃や刃物で、工藤会の捜査を担当した元福岡県警の警部や美容形成クリニックの看護師、漁協幹部を父親に持つ歯科医を襲い、大けがを負わせた。

 野村被告らから組員への指示などを裏付ける証拠がない中、検察側は関係者証言や状況証拠などを積み上げ、厳格に統制された強固な組織性を立証。判決は野村被告がいずれの事件にも首謀者として関与したとした。

 その上で元組合長射殺を巡り、被害者が1人の殺人事件では保険金や身代金目的で死刑が選択される傾向にあるが、巨額の利権を得ようともくろみ計画的に実行した犯行で「はるかに厳しい非難が妥当で、極刑を選択すべきだ」と指摘。さらに他の3事件を合わせて考えれば、組織的犯罪の重大性・悪質性は一層顕著で極刑を選択すべき必然性は高まると述べた。

 判決については「暴力団の実態に照らし判断した」と評価する声がある一方で、「別の幹部が意思決定した可能性はないのか」と疑問も投げ掛けられている。今後の論争を注視していきたい。

 警察庁によると、10年に全国で8万人近くいた暴力団の構成員・準構成員は19年に初めて3万人を切り、昨年末には過去最少の2万5900人になった。取り締まりの強化や暴力団排除活動の広がりで暴力団からの離脱が相次いだ。だが暴力団同士の抗争事件は絶えず、近年は暴力団とつながり「半グレ」と呼ばれる不良集団が高齢者を狙った特殊詐欺などで資金獲得を活発化させ、社会への脅威となっている。

 そうした中、今回の判決は、警察が14年9月に野村被告ら幹部を一斉逮捕した頂上作戦と集中取り締まりの到達点ともいえるが、工藤会は消滅したわけではない。監視と摘発の手を緩めず、市民の安全確保に全力を挙げることが求められる。