東京パラリンピックが24日に開幕した。9月5日まで22競技の539種目に4千人を超える選手が出場する。

 新型コロナウイルスの感染急拡大により原則無観客となるが、多くの市民がテレビとインターネットの中継で、選手の強い意志とダイナミックな身体の躍動、研ぎ澄まされた技術に目を見張るのではないか。

 パラリンピックは世界規模で選手がスポーツの栄光を目指して競い合う点では五輪と同じだ。しかし、開催を重ねるごとに五輪とは異なる、社会的な運動としての価値を高めている。

 その姿勢は、障害のある人に対する偏見や差別が残る社会に、大会を通じて強いインパクトを与え、それらの解消に導こうとする考えに基づいている。

 国際パラリンピック委員会(IPC)が先ごろ発表した、障害者の人権尊重を訴える新たなキャンペーンでは、世界の人口の15%は何らかの障害があると強調する。

 障害のある人を分け隔てなく受け入れることの大切さを、世界がこれまで以上に強く意識する大会となってほしい。開催国の日本は共生社会の実現に向けた、さまざまな努力を進め、活動を広げる好機と捉えなければならない。

 250人規模の大選手団で臨む日本は20個の金メダル獲得を目指すという。5年前の前回リオデジャネイロ大会は金メダル0に終わったから、野心的な目標だ。

 それでも、日本パラリンピック委員会は選手を取り巻く全般的な状況がここ数年で好転したと手応えを得て、選手強化が目に見えて進んだと感じているようだ。

 8年前に東京大会の開催が決まってから、それまではパラ選手の支援に関心を示すことがほとんどなかった企業も選手を雇用するようになった。

 練習と試合の会場への移動、さらに海外遠征のための費用捻出は、多くの選手にとって生活を切り詰めなければならないほど大きな負担だった。そこに企業による「アスリート雇用」が数多く出現した。競技に専念できる基盤を得て、選手の練習時間は大幅に増えたという。

 企業にとっては、パラ選手の支援は共生社会実現を目指す運動に積極的に参画している、との好イメージを打ち出せるメリットがある。五輪選手以上にパラ選手を採用したいと考える企業が多くなったとの指摘もある。

 国も動いた。東京都内のナショナルトレーニングセンター(NTC)のすぐ近くに、完全バリアフリーの第2NTCとも呼べる、パラ選手と五輪選手が共に利用できる施設を2年前に整備した。

 スポーツとは直接関係のない、市民の生活環境でもさまざまなバリアフリー対策がとられるようになった。駅ではホームドアとエレベーターの増設が進み、ホテルの新築や改修では、バリアフリーの部屋を一定数確保する動きが浸透し始めた。

 深刻なコロナ禍に直面し、児童や生徒に大会観戦の機会を設ける「学校連携観戦プログラム」を断念する学校や自治体が出た。やむを得ない判断だったに違いない。

 それでも、パラリンピックの教育的価値を競技会場で実感させたいとの願いから、その実施に踏み切る教育関係者の意向は、厳重な安全対策を整える条件の下に尊重されるべきだ。