菅義偉首相の地元である横浜市長選で、立憲民主党推薦の横浜市立大元教授、山中竹春氏が初当選した。首相の全面支援を受けた前国家公安委員長の小此木八郎氏らを退けた。

 選挙戦では、神奈川県など全国で急拡大する新型コロナウイルス感染症対策が大きな争点の一つになった。野党系候補の大勝は、感染防止で後手に回ってきた菅政権への「不信任」に等しい。首相はこれまでの対応を猛省し、民意と真摯(しんし)に向き合う必要がある。

 横浜市は約380万人の人口を抱え、菅首相が衆院選で当選8回を重ねた選挙区を含んでいる。

 市長選は衆院選前の大型地方選挙として注目され、過去最多の8人が立候補。山中氏は立民のほか共産、社民両党の支援を受け、支持政党がない無党派層にも浸透した。小此木氏は菅内閣の現職閣僚から異例のくら替え出馬に踏み切り、自民、公明両党の組織力に頼った選挙戦を展開したが、及ばなかった。

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致の是非が論戦のテーマになった一方、共同通信が実施した投票所での出口調査では、投票の際、最も重視した政策としてIR誘致とコロナ対策を挙げる有権者が拮抗(きっこう)した。

 選挙期間中に全国で1日当たりの新規感染者が2万5千人を超え、緊急事態宣言下にある神奈川県でも最多更新が続いた事態を考えれば、当然の投票行動だろう。

 首相は昨年9月の自民党総裁選で自身の選対本部長を務めた小此木氏を「全面的かつ全力で応援する」との意見広告を地元タウン誌に掲載。自ら電話で地元経済人らに支援を呼び掛けるなどしたが、奏功しなかった。

 都道府県境を越えるコロナ感染の防止には、自治体の首長以上に首相が重い責任を担っている。緊急事態宣言を繰り返す菅政権への批判が、首相に強く推された小此木氏に向かったと受け止めるべきだ。

 出口調査によると、自民党支持層で小此木氏が固めたのは40%余り。現職市長が立候補し、自民党市議の一部などが支援したことが影響した。候補者を一本化できなかったのは、首相の地元で「菅離れ」が進んでいるとの見方もできる。

 首相が経済活性化策として重視してきたIR誘致について、横浜の「NO」という民意は明確になった。IR構想そのものの問題点を洗い出し、必要に応じ、抜本的に見直すきっかけとするべきではないか。

 「大変残念な結果であり、謙虚に受け止めたい」。首相は選挙結果について記者団にそう語り、コロナ対策に関し「できる限り説明し、かつての日常を一日も早く取り戻せるよう全力で取り組む」と強調した。 

 そうであるならば野党が要求する臨時国会召集に応じるべきだ。質疑を通じて対策の課題が浮き彫りになり、それに対処することで「かつての日常」に向けて国民の協力も得られよう。

 首相は「政治とカネ」問題が争点になった4月の衆参3選挙で自民党が全敗した際、「謙虚に受け止め、正すべき点はしっかり正していきたい」と述べていた。だが、今に至っても独善的な政権運営に変化は見られない。

 衆院選が近づく中、今回も言葉だけに終わるなら、民意の離反が続くことを首相も与党も覚悟しなければならない。