アフガニスタンのカブールの空港近くで自爆テロが起き、アフガン人や米兵ら多数が犠牲になった。空港では各国が自国民やこれまで協力してきたアフガン人を退避させる活動中で、警備に当たる米兵らが狙われた。卑劣で許せない蛮行だ。
実権を掌握したイスラム主義組織タリバンと対立関係にある過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力の犯行とみられ、タリバンは「強く非難する」との声明を出した。タリバンのメンバー多数も犠牲になったという。
混迷の度合いが一段と深まったと言わざるを得ない。アフガンが再びテロの温床になることは、世界共通の重大な懸念だ。国際社会は結束してアフガンの安定化に取り組まなければならない。
テロを実行したのは、アフガンと隣国パキスタンにまたがる地域の領有を一方的に主張するIS系勢力とみられる。国連の報告書によると、この勢力は近年、支配地をタリバンに次々と奪われたため、カブールなど都市部での爆弾テロに活動の軸を移したという。
世界が注視する空港を標的として存在感を示すことを狙ったと考えられる。アフガン国内には国際テロ組織アルカイダの勢力も残っている。こうした勢力が、混乱の中で勢いづく恐れが強い。
米政府は8月半ば以降、10万人以上を出国させた。日本も航空自衛隊の輸送機を派遣した。米軍が撤退期限とする31日が近づき、米軍の警備に頼る退避活動の余地は狭まっており、安全の確保に一層の注意が必要だ。
また米軍の撤退後も日本を含む各国政府は、アフガンからの出国を望む人が取り残されることなく出国できるように、外交交渉や経済支援などあらゆる手段で尽力する必要がある。
今回、事前にテロ情報がありながら阻止できなかったことはアフガンの今後への不安感をかきたてる。バイデン米大統領はIS系勢力を名指ししてテロの脅威増大の情報があると述べ、米軍撤退期限を延長しない理由の一つに挙げていた。空港周辺を警備するタリバンとも情報を共有していたといい、警備を突破されたのは失敗だと米軍幹部も認めている。
バイデン氏はIS系勢力に「代償を払わせる」として米軍に掃討作戦の立案を指示。米軍はIS系勢力に対し、無人機による攻撃を行ったと発表した。だが、軍事的手段でアフガンの安定を達成できないことは、過去20年間の米軍の駐留で明らかになっている。
優先すべきは、国連を中心にアフガンの安定化を目指す国々が協力する枠組みを再構築することだ。とりわけ中国とロシアの協力を取り付けることが不可欠だ。中ロはそれぞれ、タリバン主導の政権がいずれできることを想定し、タリバンと関係づくりを進めてきた。外交官のカブール退避を急いだ日米欧と異なり、中ロの大使館は業務を続けている。今後のアフガンで、影響力を強めることは必至だ。
日米欧の先進7カ国(G7)はオンライン形式で開いた緊急首脳会議で「女性や少数派を含む全アフガン人の人権擁護を要求する」「アフガンを再びテロの温床にしてはならない」との声明を採択した。中国やロシアは人権や民主化を巡ってG7と隔たりがあるが、「テロの温床にしない」という点では手を携えることができるはずだ。