コメの収穫作業∥8月、新潟県三条市
コメの収穫作業∥8月、新潟県三条市

 コメ作りにかかわって3年。とはいえ、春にトラクターでの代かきと苗作りの手伝い、5月に体験程度に田植え機に乗り、秋の稲刈りはプロのコンバイン作業を追いかけ軽トラで運搬するだけの作業だったが。

 それにしても、春には細く風に飛びそうだった苗が夏には茎の数を増やし、秋にはたわわに実る様子は何度見ても不思議だ。風に揺れる稲穂は美しい。自分が植えた田だとなおさらそう思う。

 今年は心配された高温障害などもなく作柄は良好。ただ稲刈りの休憩時間に交わされていたのは「米価」の話ばかりで、「生産費に見合う価格に落ち着いてほしいけど、高くなると消費者離れが怖い」と農家の心配は尽きないようだ。

 コメは日本の食料自給率を守る「最後の砦(とりで)」だが、燃料、肥料、資材の高騰、後継者不足から生産者は激減。国はITを活用した「スマート農業」を奨励し、隣の田には衛星利用測位システム(GPS)搭載の田植え機が初登場したが農業の未来像はかすんだままだ。

 昨年来の米騒動は国の需要見通しの誤りが原因だった。にもかかわらず生産調整を続けるのか。石破茂首相が言っていた直接所得補償の構想はどこに消えたのか。農業の活性化は若者を地方に定着させ、地方のにぎわいを維持する切り札のはず。今年も島根の新米はうまい。うまいだけに「これがあと何年食べられるのだろう」と、複雑な思いが頭を駆け巡る。(裕)